捕まってしまったというのに



ぱたぱたと廊下を駆けてゆく背中を見送って、隠れているわけでもないのになんだか後ろめたくなった私は恐る恐る教室を覗いた。すると窓際の机に座っている榛名と目が合う。榛名は私の顔を見るなり、すごく気まずそうな顔をして目を逸らした。


「ごめん…わざとじゃないんだけど、聞こえちゃった」
「や、別に…いつものことだし」


首の後ろに手を当てたまま、未だに私と目を合わせないようにしている榛名。やっぱり聞いちゃったのはまずかったかな。困ったように息をついた榛名に、さっき自販機で買ったレモンティーを差し出した。


「?」
「聞いちゃったお詫び。と、慰め」


優しいでしょ、と言えば榛名はようやく私を見て「うぜー」と笑った。ちょっと、せっかくあげたのにうぜーってなによ。でも榛名が笑って、よかった。


「追いかけないの?彼女」


榛名がストローをくわえたところで、大きなお世話であろう一言を放つ。レモンティーを一口飲んだ榛名は「あー…」と曖昧な返事をした。


「あいつワガママなんだよなー」
「榛名が言うなよー」
「んだとテメエ」


じろりと睨みつけてくる榛名に怖いよと笑う。つられるように、榛名も笑った。私は榛名とこうして、いい友達のまま楽しくしていられたら良かった。それなのに、ストローから口を離した榛名が、言った。


「お前が彼女だったらよかったのにな」


ズキン、と胸がひどく痛んだ。すごく、苦しい。思ってもいないこと、軽々しく口にしないでよ馬鹿。私は知ってる。榛名があの子を見つめる目が、とっても優しいってこと。本当は大好きなくせに。意地なんて張ってないで、あの子を追いかけて抱きしめてあげればいいのに。


「!? おい、」


私の顔を覗き込んだ榛名の目が大きく見開いたのが、歪む視界の中でうっすらと見えた。腕に伸びてきた榛名の手を振り払う。教室を飛び出した私を、榛名はどう思うだろう。しんと静まり返っている廊下を、あの子が走り去ったのと反対方向に走った。私のひとりぼっちの足音が虚しく響く。榛名が向かう先は、こっちじゃない。




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