聖なる夜に



ふと目が覚めると隣にあるはずの温もりがなくて、不思議に思い体を起こした。眠い目をこすって部屋を見渡すと、彼女は窓際にたたずんでいて。少しだけ開いたカーテンの隙間から星空が見えた。


「なにしてんの」


後ろから彼女を覆うように窓枠に手をつく。彼女は見上げた空から目を離さず、俺におとなしく体を預けた。


「サンタ…いないなあって」
「は?」


ぽつ、と落とされた言葉に目が覚める。サンタってサンタクロースだろ?こいつまだ信じてんのか?いや、子供っぽいところがあるとはいえ、この年になってそんな…


「…一応言うけどな、サンタって、」
「わかってるよ」


馬鹿にしないで、とでも言いたげな、少しむくれた口調。そんな彼女にさすがにそうだよな、と心の中で苦笑して、宥めるように彼女の体に腕を回す。頭の上に顎をのせて抱きすくめれば、小さなこいつはすっぽりと収まった。ふ、と吐き出した息が、窓ガラスを白く染める。


「…いつからサンタを信じなくなっちゃったんだろうね」


その言葉がすごく寂しげで、思わずぎくりとした。年を重ねるにつれ俺たちの中から存在が消えていくサンタ。子供の頃、わくわくしながら靴下をベッド脇に備え、おとなしくベッドに入った。俺だけじゃなく友達だってそうで、煙突がないからサンタは入って来れないんじゃないかと窓の鍵を開けたりサンタ宛に手紙を書く奴もいれば、サンタを一目見ようとベッドの中で眠い目を頑張って開く奴もいた(でも結局は寝てしまうんだ)サンタを純粋に信じる心は、この年になればなくなっているのが当たり前で。彼女は今、それを悲しく思っているんだと気づいた。ひたむきに空を見つめ続ける彼女を見て、俺まで悲しくなってくる。どんなに空を眺めたって、トナカイのそりは駆けていないのに。どんなに空を眺めたって、なくなった心は取り戻せないのに。


「おとなになるってかなしいね」


そだな、と返せば彼女は淡く微笑みながら振り向いた。その情けない笑顔に吸い寄せられるように口付ける。何度か合わせた唇を離すと、彼女はふふと笑い声を漏らした。


「やっぱり私、おとなになれてよかった。準太とキスできるもん」


緩んだ頬はいつも通りのこいつで、さっきまでの悲しさは淡雪のように溶かされた。おとなに近づくにつれて覚えた愛情表現は、だんだんと純粋な心を忘れる俺たちを慰める。もう子供じゃないけどまだ大人じゃない、そんな不安定な俺たちは、淀む心に戸惑いながら時間の流れに身を任せるのだろう。そして大人になるのだ。それは悲しいことなのかそうじゃないのか、今の俺にはわからない。でも今夜はもう悲しむのはやめて、暖かいベッドで眠ろう。だって今夜は聖夜だから。サンタなんかいなくたって、お前とふたり夢を見れるなら、俺は





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