火照る



部活がミーティングだけの日の、放課後。久しぶりに一緒に帰れると分かると、彼女はぱあと目を輝かせて素直に嬉しいと言った。そんな彼女が可愛くて頬が緩みそうになるのを頑張って堪えたのは、その日の昼休みのこと。

校門に近づくと、タータンチェックのマフラーの中に顔を埋めた彼女が待っているのが見えた。はふ、と吐き出した息は白く、淡く夕暮れの空気に溶ける。また一歩進めば彼女は俺に気づいて、千切れそうなくらいぶんぶんと激しく手を振った。


「あずさっ!」
「おー…んなでけえ声で呼ばなくても聞こえるよ」


嬉しい反面、周りの視線が少し痛い。すると彼女は俺のところへ走り寄ってきて「だって梓と帰れるの楽しみだったんだもん!」と言ってふにゃと笑った。その笑顔に、俺の体の力もふにゃと抜ける。なんか三橋と田島の会話聞いてるときに似てんだよなー…いや、あっちはハラハラもついてるか。こいつのは完全に、癒しだ。

幸せをひしひしと感じていると、彼女は斜め前から「じゃ、帰ろっか」と振り返った。あれ、後ろ乗んねーの?自転車を押しながら歩み寄れば「歩いたほうが一緒にいれるでしょ」と一言。こういうことを恥ずかしげもなくさらりと言ってのける彼女に、俺は毎回顔を赤くしてしまう。それを彼女にからかわれるのは悔しくて、気づかれないように「だな」と短く返事をした。


二人並んで歩いて、他愛ない話をする。お互いに話題は尽きることなく溢れてきて、彼女の家の前に着くのはあっという間に感じた。それでもこの季節の日が落ちるのは早く、辺りはもう薄暗い。「着いちゃったね」と寂しげに笑う彼女の頭をよしよしと撫でてやると、彼女は照れたようにはにかんだ(可愛いっつの!)ふと、合わせていた彼女の視線が俺の目より上へ移る。ぱちぱちとまばたきをする彼女になんだよと訊ねると、そこを指差した。


「梓、それあったかい?」
「?」


彼女の指差す先にあるのは、ニット帽。ああ、あったかいよと答えると「ふうん」と言って笑った。


「坊主ってあたま寒そうだもんねー」
「うっせ」


彼女が笑うたびに白く広がる息。このままここで喋っていては、彼女に風邪をひかせてしまうんじゃないか。名残惜しいけれど、こいつが風邪をひくくらいなら我慢できる。じゃあそろそろ、と言った瞬間「ちょっと屈んで」と言われた。


「なんで?」
「いーから!」


早くとせかす彼女にわけもわからないまま屈む。背の低い彼女に合わせると、彼女は目の前で満足そうに笑ったあと、…消えた?視界が、暗い。そして、ふに、と唇に当たるぬくもり。そのあと、照れたように笑いながら現れた彼女。


「な、おま、なにして…っ!」


それを理解するのに時間はかからなかった。まだ目にかかるくらい下がったニット帽を直しながら、えへへと笑う彼女。


「バイバイのちゅーだよ!」


呆けたままの俺に「また明日ね!」と言って玄関の中に消えた彼女。あーもうアイツには勝てる気がしねえよ、まじで。額に手を当てて、真っ赤であろう顔のまま深く溜め息をつく。冷たい風は引かない熱をうまくごまかしてくれた。




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