いたずらな



今日はバイトがないから、少しだけ悠一郎の練習している姿を見ていこうと思った。グラウンドに一歩近づくたびにトクンと胸が鳴る。試合は見たことあるけれど、練習を見るのは初めて。普段、部活をしている悠一郎ってどんな風なんだろう…。

少しだけ、こっそり少しだけ見て帰ろう。フェンスに手をかけると、カシャ、と小さな音がした。でもその時にはとっくに、私の目はフェンスの奥に釘付けになっていた。


練習用のユニフォームを土で汚しながら、キラキラと輝く悠一郎。大好きな野球をしているときの悠一郎は本当にかっこよくて、すごく楽しそうだった。…見に来て、よかった、な。

しっかりと目に焼きつけておこうと思った瞬間、視線に気づいたのか、悠一郎がふとこちらを見た。ぱちり、と交わる視線。


「あーーーっ!!!」


途端に、悠一郎は何度か私の名前を呼びながらこちらにダッシュしてくる。びくりと肩が跳ねて、なぜか逃げ出そうと視線を左右に送った。ぐんぐん近づいてくる彼の向こうで、野球部員たちが目を丸くしているのが見える。は、恥ずかしいよ…!


「なに、なにしてんの!?バイトは?オレ見にきたの!?」


がしゃん!とフェンスにぶつかってきて、目をらんらんとさせている悠一郎。もし尻尾があったら、ちぎれんばかりに振っているんだろうなぁ。かっこいいと思ったばかりなのに、フェンス越しに視線を交えているのはいつもの無邪気で可愛い彼だ。


「今日はバイトないの。だから悠一郎が練習してるとこ見たいなって思って」
「マジでー!?うは、うれしー!」


そう言ってニカっと笑った悠一郎に、胸がきゅんと音をたてたのがわかった。悠一郎は少し笑顔を柔らかくして見つめてくる。なんだろう…ちょっぴり大人びた笑い方に、なんだか落ち着かない。


「ちょっと待って、いまそっち行く!」
「えっ?」


言うが早いか、悠一郎は出口に向かって走って行った。
「部活中でしょ!?」と呼びかけると「ちょっとだけだから大丈夫ー!」と返ってくる声。すぐに、ユニフォーム姿の悠一郎が目の前に立っていた。ふ、とひとつ息をついて、私の肩を押す。


「ゆういちろ……、っ!」


カシャン、と音をたてるフェンス。背中に金属の感触を感じた。唇には、ぬくもり。
すぐに離れた悠一郎は満足げに笑っていた。その顔を見て、ああキスされたんだ、と理解する。


「元気もーらい!」
「元気、って……悠一郎はいつも元気いっぱいじゃない…」
「お前とチューしたからもっと練習がんばれる!」


しし、と悠一郎は歯を見せて笑って、すぐにまたフェンスの向こうに戻って行った。残された私はひとり、唇に残った感触と頬の火照りにため息をつく。…悠一郎には翻弄されてばっかりだ。

「オレのかっこいいとこいっぱい見てってねー!」と叫ぶ彼は、すでに部員たちのところへ戻っていた。悠一郎のかっこいいとこなんてもうたくさん見ているのに、ね。いつだって私をドキドキさせて、悠一郎は、ずるい。




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