中篇 | ナノ


▽ 四話


 分隊長になったと思ったら、暫くして団長補佐という役職に就かされた。12代団長キース・シャーディス曰く、後継にはエルヴィンを考えている。エルヴィンが団長となったときに、補佐にお前を据えるだろうとの意見だった。シャーディス団長、舐めちゃいけない。アイツは変人なんだぞ、常人の考えが及ばないことを仕出かすんだぞ。なんて反抗したくとも交渉が面倒くさいので、分隊長は副官を務めててくれたフラゴンに任せて補佐官に付いた。めちゃくちゃ戸惑ってたけど、彼ならできると信じてる。
 団長補佐と分隊長になったから何が変わったと言われても、わたしたちはの肩書きが変わっただけで、関わり方も関係も対して変わりはしない。相変わらずエルヴィンはエルヴィンだし、わたしはわたしだった。


「王都の地下?憲兵団ですら行くの躊躇う場所なのに行ってるの?」

「たまたま用事があって赴いただけだ。そこで三人ほど有能な人材を見つけた」

「寧ろ地下にどんな用事があるのか説明してほしいところだけど、エルヴィン、君はシャーディスに呼ばれているでしょ」

「許可は必ず得る、その時は君も来てくれないかい?」

「…その時?」

「彼らの勧誘だ。一緒に来てほしいんだが」

「………断る」

「今悩んだろう」

「王都の地下がどんなものかという事に関しては興味あるけど、その為だけに仕事を溜めるのは頂けないもん」

「つれないな」

「ザカリアス達優秀な班員が居るでしょ、だったら問題ない。さっさと行きなさい、シャーディス待たせないように」


 本来ならば、シャーディスと共に総統の元へ向かうのはわたしなのだけれど、今回はエルヴィンが考えた陣形についての話もあるためにわたしはお留守番だ。やったね。もとよりわたしのいい返事を期待してなかっただろうエルヴィンは溜め息をわざとらしく吐いて、行ってきますと呟いて踵を返して廊下へと出ていった。
 ザカリアスは体格とあの嗅覚もあってか、おそらく今現在、この兵団において一番の実力者じゃなかろうかと思うものの、未だ分隊長ではなくエルヴィンの直属なのだから驚きだ。…今度の編成で進言してやろうか。でも今分隊長に空席がないんだよな、皆実力者だから壁外を乗り越えてきてるし、喜ばしいことだ、うん。…ああ、でもエルヴィンとザカリアスはどっちがより実力を持ってるのかな…。


「副団長は行かないのか」

「ザカリアス、君にはいい加減ノックをしたら返事を待つことを覚えてほしいねー」

「今更か…?」

「…わたしには構わないけど他の人の時はちゃんと返事をもらってから入室するんだよ?エルヴィンが同行するからね、わたしはお留守番」

「地下街には行くのか?」

「断ったところだけど」

「……つまらないな」

「そういう問題じゃないと思う。エルヴィンへの書類なら彼の執務室に置いておきなよ、帰ってきたら見るでしょ」

「分かってる」


 ザカリアスには懐かれた?のかな、これ。暇と気が向けば此処に来るザカリアスは入団当初にはなかった髭が生えていて、昔は可愛かったのにと呟けば鼻で笑われる。どうでもいいけど顔が整ってるイケメンの鼻で笑う行為って本当に蔑んでる感がして時々気に入らない。エルヴィンにそう言ったら美人な女性にされても同じだぞと返された。あの男は美人な女性に鼻で笑われたことがあるのだろうか。何をしでかしたのか興味がなきにもあらずだが、この会話をしたのは数年前だからきっと彼の記憶には無いだろう。
 ザカリアスは、数年前に結婚して可愛い双子のお父さんである。彼の嫁になったその子はザカリアスの同期でわたしの班に所属していたとても優秀な子なのだが、実はドークの実の妹である。ファミリーネームが同じなのには気付いていたけれど、エルヴィンから聞かされたときは信じられなかった。その彼女の兄であるドークとは時々街で偶然鉢会わせたりするけれども相変わらずで、護るために調査兵団を止めた甲斐があるのかないのか、護りたい人とは順調のようで幸せそうな家庭を築いているらしい。…好きで鉢会わせているわけではないのだけれど、その頻度に憲兵団とやらは暇なのだろうかと疑ってしまう。


「………駐屯兵団は呑んだくれる位だからなぁ…」


 一番暇であろうのは駐屯兵団だと思う。駐屯兵団で腐ってる兵士が居るならば、少し位調査兵団に分けてくれてもいいんじゃないかな。でも呑んだくれ兵士は壁外に出たらきっと一瞬だろうから分けてもらうなら憲兵団がいいな。まだ使えそうだし。そして総統の元から帰ってきた二人を迎えれば、マジでエルヴィンは王都の地下に行く許可を取ったらしく、近い内に仕掛けに行くとのこと。わざわざご苦労様だね、本当貪欲というかなんというか。恐れ入るよ。なんて言葉を交わした数日後、とうとうしでかしたらしい。


「彼はリヴァイ。彼女はこの調査兵団の団長補佐を務めてる。団長補佐だが、大半のものが副団長と呼んでいるな」

「…………ああ、エルヴィンが狙ってた例の…。取り敢えずよろしく」


 突然廊下で紹介を受けて一体何の話だと首をかしげたが、そう言えば前にそんな話を聞いたななんて思い出す。


「…………」

「(目付き悪いなぁ…)」

「彼女はこう見えて現在の兵団イチの実力者だよ」

「君はいけしゃあしゃあと何嘘ついてるんだ…!」


 リヴァイ、という地下で見つけたエルヴィン曰く有能な人材を紹介されて、エルヴィンに狙われたことは御愁傷様だね、頑張れなんて心のなかでエールを送っていれば、素晴らしい笑顔でけろりと嘘をはいてしまうエルヴィン。かつての同期達の中ではエルヴィンスマイルで通ってしまっていた位の素晴らしい笑顔。わなわなと震えていれば、リヴァイに視線で射殺されそうになる。


「他にも二人居るんだが、またあとで紹介しよう。誰の隊に任せたらいいと思う?」

「誰のって…君が連れてきたのだから君の部隊じゃないの?」

「今回は指揮を任されてるんだ、知ってるだろう?」

「何という無責任さ。後で分隊長とシャーディスで話し合うんでしょ?そこで決めたら」

「君の意見が聞きたいんだ」

「…………………フラゴン」

「気に入っているな、彼のこと」

「副官を務めてくれてた実力者だからね」


 だからどうして君がそんな不満げな顔をするのか、私には理解できないよ。



2015/04/17

prev / next

[ back to top ]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -