中篇 | ナノ


▽ 三話


 壁外調査で負傷して療養中の分隊長に変わって出来る職務をするのにも慣れたな、なんて思いながら資料庫から持ち出した資料を片手に廊下を歩いていれば見慣れた背中とその横にいる高身長金髪に思わず言葉を発してしまう。


「………君の班は巨人部隊かなにか?」

「ん?ああ、君か。そんなことはないと思うが…」

「平均身長高すぎでしょ。……って言うかコイツ誰」


 言葉を発したからか、わたしがいる窓際に近付いてくるエルヴィンと高身長金髪。スンスン匂いを嗅いでくる見慣れない顔を避けつつ、エルヴィンに訊ねれば前回の壁外調査による編成を受けて自分の班に来ることになった新兵のミケ・ザカリアスというらしい。嗅覚が発達しているらしく、匂いで巨人が居る方向がわかるという特殊な術を持っているからなのかなんなのか、初対面の人に会えば必ず匂いを嗅いで鼻で笑ってしまうらしいのだけれども、エルヴィンは笑われなかったらしい。……って言うかしつこいぞ、この新兵。


「ミケ、彼女は私の同期で、別の分隊長の下で班長を務めてるなかなかの実力者だよ」

「ああ」

「……珍しいな、ミケが鼻で笑わないなんて」

「笑われると思ったのにってニュアンスを含ませないでいただきたいな、エルヴィン」

「笑われると思ったからね」

「エルヴィンこそ失礼だと思うんだ」


 ……というか、エルヴィンが変人だから変人が集うのだろうか。そんなことを窓枠に肘をついて考えていれば、ぬっと視界に入ってくるザカリアスに気持ち頭を後ろに引く。


「いきなりなに」

「何もない」

「…エルヴィンも大概変人だと思ってたけど、ザカリアスも変人だわ、やっぱ」


 溜め息を吐いて、これから立体機動の訓練だという彼らと別れて執務室に向かう。
 初めて壁外調査に赴いてから何だかんだとわたしは生き延びているけれど、全員で27人居た同期はいつの間にか3人になり、今回の壁外でわたしとエルヴィンだけになってしまった。これが現実と言えば現実で、まだ同期がいるだけマシだと分隊長は笑っていた。多くの犠牲を払って、得られるものは僅かで、果たしてこんな状態が続いて志望してくれる新兵は何を考えているのやら。


「また食いっぱぐれるつもりかい?」

「…………いやなんかもう食べるのも面倒くさくて…いいかなって…」

「まだその諦め癖、治らないのか」


 報告書やらなんやらに目を通していれば視界に突如として現れたスープとパンに視線をあげれば、呆れた顔をしたエルヴィンが居て、今ではエルヴィン専用となりつつある壁際の椅子を机を挟んでわたしの正面に持ってくる。夕飯の時刻になってもやってこないわたしに見かねてエルヴィンが自分の分まで持ってやってくるのは大分恒例になってきた。わたしがデスクの上を軽く整理している間に、勝手知ったる部屋とでも言うかのように彼は勝手に珈琲と紅茶を入れる。


「…今回の被害も甚大だ」


 書類の束の一番上に乗っている今回の散ってしまった仲間のリストが視界に入ったのか、エルヴィンが何処か遠い目をして呟いた。


「そうだね」

「どう思う?」

「…それは何にについてどう思うを答えればいいの」

「何でも構わないが、逆に何を問われると思ったのか参考までに聞きたいかな」

「エルヴィンはやはり変人なのかなと思うよ。訓練時代から共にいるけれど」

「俺は君のその変わらない何処か諦めた目が、嫌いだよ。それ以外はいいんだが」

「他の子に現を抜かしていたのに?」

「嫉妬かい?」

「…………」

「……冗談だからその表情は止めてくれ。全く、いつも君に対して俺の気持ちは一方通行だな。俺は君がパン屋のマークに愛を告げられたとき嫉妬したって言うのに」

「寝言は寝てから言うものよ、エルヴィン。って言うか言ってないことを何故知ってる」

「君は案外目立つということを自覚した方がいいと思うよ」

「で?結局君はわたしに何を求めてるの?」


 そう問い直せば、エルヴィンは戦死者リストを指で示してまたどう思う?と質問を繰り返した。確かに今回も被害が大きい割に何も利益をなさなかった。資金集めだって苦戦を強いられる一方だろう。


「今までのやり方は捨てて、新たに何かを考えるべきだとは思う。でもその新な何かが何かは分からないし、何処を変えるべきかもはっきりしない」

「…………君は、俺がどんなことをしても生きてくれるかい?」

「程度によるけど、余程のことがない限り生きる予定だよ。君との約束を破った時が恐ろしいからね」

「それは喜んでいいのかい?」

「……エルヴィン、君は何か考えてるんでしょ」

「まだ構想段階だがね、それを実現させるにはまだ俺の立場も実力も不充分だ。ただ、それが実現される為にはもう少し今居る兵も育っていなくてはいけない」

「そう、大変ね」

「ミケについてはどう思う?生き残ると思うかい?」

「寧ろあれが死ぬのかって位、エルヴィンにとっては有益な人材になると予感してる」

「君の勘はよくも悪くも当たるからな、信じてるよ」


2015/04/15

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