中篇 | ナノ


▽ 1話


 訓練兵団に入ったのは、自立したかったから。
 調査兵団に入ったのは、スミス分隊長と当時分隊長だったバン団長補佐に憧れたから。
 壁外調査で、人類の平和がとても脆いことを知った。巨人がどうやって人間を食べるのか、如何にわたしたち人類が籠の鳥であるのか知った。目の前で喰われていく同期達を、仲間達を犠牲にわたしは壁外調査を生き残り続けた。


「補佐なんて要らねえよ」


 団長補佐から突然、与えられた部隊編成の会議へ参加するようにという指示。何度経験しても壁外後の会議は慣れないなと溜め息を吐きながら、作戦立案室で行われるそれのために部屋へ入り、わたしは他の兵士と同じように壁際に立つ。時刻になって始められた会議で告げられた辞令は、エルヴィン分隊長が長らく空席だった兵士長に就任、多くの空席になってしまっている分隊長にミケ先輩、ハンジ先輩、そしてリヴァイさんが就任するというもの。それに伴い、それぞれの補佐官が任命されたものの、リヴァイさんからの補佐は要らねえ発言が飛び出す。そう言われると辞令を受けたわたしに居場所がなくなるな、なんて他人事のように思う。


「要らないというが、リヴァイ、君は分隊長の仕事を知らないだろう」

「…」

「私達だって無意味に補佐をつけたわけではないんだ、本当に要らないかどうかはもう少ししてから判断しても遅くはないと思うよ」

「……チッ」


 ………この人とちゃんと仕事できる日って来るんだろうか。思わず遠い目をしてしまった。何だかんだで部隊に来る兵士も決まり、退室していく面々を見送ってから退室しようとすれば、団長補佐に声をかけられて聞かれたことに頷く。分かっていたんだ、亡くなった人の場所は埋めなきゃいけないのは。幾ら実力があったといえ、それはあの人も変わらない。
 会釈をしてから退室して、かつてあの人が使い、今度はリヴァイさんが使うことになる執務室に足を向ければ、あの人の私物は小さな箱に入って机の上にあって、それを抱えると自分の私室に向かう。


『フラゴンの私物なんだけど、彼から調査前に預かった手紙には貴女に引き取ってほしいって書かれてて…。辛くなければ、フラゴンの願いを叶えてもらえないかな…』

『……分かりました』


 世界って、残酷だなぁ。
 彼からの私物を片付けていれば、出てきた小さな布張りの四角い箱。それと一緒に出てきた手紙の宛名はわたしで、中身を読んでから、それを開ければ、一組のリングが入っていた。シンプルだけど決して安物には見えないそれに視界が滲んでくる。ああ、あの人はこれを渡して伝えたかったのか。


『今回の壁外調査から戻ってきたら…、その、お前に渡したいものと伝えたいことがあるんだ』

『今じゃダメなの?』

『今じゃ駄目だ』

『じゃあ、意地でも帰ってこなくちゃね』

『そうしてくれ』


 滲んだ視界を袖で脱ぐって箱から取り出した一組のリングをチェーンに通して首にかける。もう嵌めることは出来ないけど、これくらいは赦してくれるでしょ。あー、クッソまじ悔しい。


「(………指示は飛ばしたはずなんだけどなぁ…)」

「………」


 リヴァイさんと壁外調査に何度も出たけれど、リヴァイさんの実力に伴う配置になるからか、生きて拠点で合流できれば見事、生きて帰還できれば素晴らしい。そんな過酷な部隊になってしまっている現状。今回はいつも以上に巨人との遭遇と戦闘が多くていつもだったら怪我をしない人たちまで程度は軽いけど怪我を負っていて。わたしたちの部隊の兵士の他に一班丸々合流してこない。チラリと背後にいるリヴァイさんを見れば、黙って正面を見つめていて、その表情からは何も窺えない。
 リヴァイさんが奇行種を含めた巨人の群れと戦闘を始めるから、一人にするわけにはいかなくて他の班員には構わず先に行っている部隊に合流しろと指示を出した。返事も返ってきたから、彼らに手を伸ばす巨人の項を削ぎながら、リヴァイさんの補佐をしていた。わたしたちが拠点に合流したとき殆ど最後だったはずなのに、彼らは此処にいない。踵を返してミケ先輩に今回合流していない班の配置を聞けば、わたしたちの前方に配置されていたそうで、もしかしたらこの班に合流してしまったのかもしれない。


「だから壁外って怖いですよね」

「ん?」

「何度も乗り越えてる兵士が意図も簡単に散っていく。今回消えた班だって、何度も何度も乗り越えてるのに」

「確実というものがないからな、この世界には」

「何かミケ先輩が言うと説得力ありますよね」

「…………何故だ」

「さぁ?貫禄でしょうか?」



2015/04/28

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