「……さ、もう帰らな」 遠くに聞こえる最終下校を告げるチャイムが俺たちの穏やかな時間をゆるりと遮る。気付けば他の部活動もすべて終わってしまっていたようで、部室には財前の穏やかな寝息だけが静かに反響していた。 「…せやな」 任せきっていた重心を己の方へと手繰り寄せ、ぐっと足に力を込める。 なんや俺、引退してから寂しがりになってもうたかな。…まだ、甘やかされていたかったな、とか思っとる。もっとその声で宥めて欲しい、なんて、思っとる。 思わず表情に出そうになって俺は慌てて目を瞑った。 「…はあ、財前のヤツこんないい寝顔さらしよって…起こしづらいったらあらへん」 「ホンマやな…、よう、寝とる」 「よし白石。ちょっと手伝ってや」 「…おっけ」 眠りこける財前を2人で協力しながら小石川の背中に乗せる。思ったよりも軽い身体に、少し愛おしさを感じた。 やり途中の仕事の紙片を手早く整理していると、思いのほか仕事が押していることに気付く。 …こりゃ、明日までのヤツは間に合わへんかも。今日は途中で脱線してもうたからな…。 持ち帰る分の仕事を自分の鞄にこっそり詰め込んでいると、目敏い小石川に「俺の鞄にも入れとけ」と言われてしまって苦笑い。ホンマ、敵わへんわ。 「どうせ帰り道は一緒なんやし、荷物がひとつやふたつ増えたとこで変わらへんなあ」 「荷物、て。それ財前が起きたら言ってやろ」 「ちょお白石それはアカン」 「知らんー」 時には真面目な副部長。 時には頼れる小石川。 いつも優しい俺の相棒。 俺の弱さを、全部知ってる健二郎。 小石川の冷静さと温かさに俺はいつも助けられ続けてきた。それは勿論、部長としても、白石蔵ノ介としても。 「健二郎…」 「おん?」 「財前にも…お前みたいな相棒が、できるとええな」 財前、きっとお前にも。 俺が、そうだったように。 「……せやな」 大切な、相棒が。 松円丸さん、リクエストありがとうございました。本当、誰二郎と誰石ですみません。初めての試みがこんな空気になるとは思ってなかったんです。ご期待に添えているかちょっと不安ですが、こんな感じになりました。 |