「なぁ白石、アレの提出期限っていつまでやったっけ」

真後ろから聞こえた低い声に、ファイルを捲っていた手が緩やかに止まる。
そして直後に頭を巡るは未だ手付かずのアレに付随して配布された、説明用資料4ページ第二項「提出期限」の記憶。

「…ん、今週中。小石川のソレと同じ」
「間に合うんか?」
「平気やろ」

背中合わせに座って机仕事をこなしつつ小石川とこんな風に会話をするのも、後数ヶ月。早いもんや。
思えば俺は二年間もずっとこんなことをしていたんだなあと考えて、少しばかり懐かしむような気持ちが込み上げた。
最初の一年間は先輩が副部長だったということもあって気楽な事務風景というわけではなかったが、二年目からは本当に楽しく仕事ができたような気がする。

「でも、アレって生徒総会でのウチの目玉やろ。早めにあげとかなくて大丈夫か?」

手元の資料にボールペンで添削を施しながら真面目なことを言う小石川。
突っ張った髪型も、それに似つかわしくない思いやりのある性格も、全部が頼りになる。そんな小石川が俺は好きだ。

「一番手間な小春の管轄部分が終わっとるから間に合うと思うけど」
「あ、ホンマ?そんならええわ」

あのとんでもない全国大会が終わってから直ぐに行われた引継ぎ式からは、彼是二週間が経つ。
事実上そこで俺たちは引退ということになったが今でも頻繁に部活へは顔を出していた。べったりと染み付いたテニスへの思いはなかなか消えるものではない。
謙也も銀も、ユウジも小春も、時間を見つけてはテニスをしに来る。ただ下級生の邪魔にならないよう出来る限りひっそりと、だけれど。
ちなみに千歳も、大会前と変わらない気まぐれさながらも顔を出しには来ていた。あの退部騒ぎは既に雲散霧消したようで酷くホッとしたのが記憶に新しい。

もちろん俺たちも変わらず事務仕事をしに部室へと足を運んでいた。
部長会議や生徒総会のことはまだ任せられないから、とそれらしい言い訳をしているが、実は2人とも心配なだけなのだ。
早いところ次期部長に引き継いでもらいたいと言うのは嘘じゃないが、そこまで求めるのは急ぎすぎやな、と思っているので俺たちは保留している。なんせまだ副部長が決まっていないからな。

引継ぎのときに決めなければならなかった次期部長は俺の指名とオサムちゃんの推薦であっさりと決まったが、その次期部長が次期副部長を指名しかねているのだった。





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