「…もう戻ってもいいですか」

弛緩した空気に仁王の声が響く。うわ、お前何その声…。不機嫌丸出しじゃん。機嫌直ったかと思ったのに。

「…仁王、お前先生に向かってなんて態度だ。今回は逃がしてあげるけど、悪いのはお前なんだからな」

逃がすって…。幸村くんの言葉選びって本当場所を考慮しないよね、ここ職員室だよ?

「……分かっとる」
「その顔は分かってない」
「………分かってます」
「言葉を直したって変わらないよ」
「……以後気をつけマス」
「信用できないな」
「………カラコンはやめときマス」
「服装と髪はいいと思ってる?」
「…………いや、…」

…こえーよ。幸村くんこえーよ。標的じゃない俺すらこえーよ。
そんな尋問の仕方を中3で難なくこなしちゃ駄目だって幸村くん。ただでさえアンタはオーラが違うんだから。

「まぁ別にいいけど。今に始まったことじゃないしね」

なんだよ、仁王をいじめたかっただけか。



「なー仁王」
「……なんじゃ」

揃って職員室を後にする俺たち。ちなみに幸村くんはまだ残ってた。違う用事もあったんだとさ。

「黒染めする?」
「は?するわけないじゃろ」
「幸村くんが別にいいって言ったから?」
「関係ない」
「そうか?俺が見た限りだと、お前って幸村くん絶対主義みたいなとこある気がするけど」
「……節穴なんじゃろ、お前さんの目」

あー本当面白え。仁王をイジりたくなる幸村くんの気持ちすげー分かるわ。
分かりやすい自分を何とか隠そうとしてるわりにすぐボロが出る詐欺師。引退してからナリを潜めてる仁王の意地汚くも可愛らしいペテンを思い出して頬を緩める。

「何が面白い」
「いやー?別にー?」
「丸井マジでむかつく」
「仁王マジでかわいい」

ピクッと足を止めて仁王がこちらを見た。うわ、めっちゃ不機嫌。

「丸井」
「ん?」
「うざい」
「そうか?」

天才的な俺様に向かってウザイと吐き捨てた仁王は、そのまま教室へは戻らず屋上へ続く階段を上がっていった。


だからさ。
そういうとこが可愛いんだって。


「…俺もフケよー」

ポケットに常備しているグリーンアップル味のガムを2枚口に放り込んで、俺は仁王の後を追った。

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