伸びきったミルクティー色のカーディガンをだらだらと着崩して仁王は登校する。衣替えの時期とは言え指定のジャケットすら羽織っていないのは些か問題なんじゃないかと思いながらも、俺もその部類の人間なのでどうしようもない。ジャケットを着てしまうと暑い、Yシャツの上にもう一枚着ないと寒い。となればこうなるのは最早当然だろう。

チャイムと同時に教室へ辿り着き、教師が来るのと同時に着席。いつも通りだ。席は窓側の一番前。何気に死角だったりするらしい。

俺はそんな様子を奴の席の3つ後ろから眺めている。
仁王とは部活仲間で、その上クラスメイトで、他の奴らよりも距離は近い。
けどぶっちゃけ仲の良さなんて知れてる。もはや「良さ」と言ってしまうことすら憚られるほどに、俺たちは他人だ。

ただ。

俺はそんな距離感がそんなに嫌いでは無かったりする。


「仁王、ちょっと職員室来い」

ホームルームが終わり、ありがとーございやしたー的な挨拶が終わった直後。窓の外をぼんやりと眺めていた仁王に突然のお呼び出し。珍しくは無い。
今日は何の小言なのやら、あ、もしかしてカラコンばれたとか?それとも服装?心当たりがありすぎるところが仁王だと思う。

「あ、あと丸井もな」


………。

…そうだった、俺もその類の人間なんだった。

おそらく今日のお小言は髪の色。俺も仁王も染め直したばかりでいつもの3倍は色艶があるからな。ただでさえ目立つのにそんな頭してたらさすがに説教も仕方あるまい。
揃って席を立ちながら2メートル程の距離をあけて教室を出る。勿論職員室に向かって歩いているときも距離をキープ。並ぶ必要は無い。

「………」
「失礼しまーす」

無言で入室する仁王をフォローするつもりでそう言うと、チラリとこちらを見られた。…何その目。全然意図が見えないんだけど。

「来たか」
「はーい来ましたー。……って、え?何で幸村くんが居んの?」

教師の机に近づくと、椅子に腰掛ける教師の傍らに我が部の部長様が立っておられた。あれ?幸村くんが呼び出しとかありえなくね?なんで。
だって髪の色は遺伝だし、ゆるふわパーマも天然だし。優等生だし。カラコン入れてないし。…全然理由が無い。

「お前らのことは部長から言って貰った方がいいと思ってな」
「あ…、そゆことですか」
「どうせお前ら、俺から言っても治さないんだろ?」

そう言って諦めたように笑う教師を見て、「まぁねえ」と心中で相槌をうつ。
1年のほぼ序盤から俺も仁王もこんなスタイルだし、幾度と無く指導は受けたけど治す気なんてこれっぽっちも無かった。

「先生、部長なんてやめてくださいよ。俺たちはもう引退したんですから」
「え?でも一応卒業までは部長職の権限残ってるんだぞ?」
「しかし…引継ぎももう終わりましたし…。というか仁王も丸井もこのまま高等部に上がるんですから今更の指導は必要ないと思いますけど」

飄々とした顔で俺たちを擁護(しているような感じの発言を)する幸村くんに、ちょっとだけ感謝した。染めたばっかりで黒染めなんて死んでもやりたくねーし。
そう思ってるのは仁王も同じなようで、さっきまで不機嫌だった顔が今は幾分和らいでいる。

「うちの真田が容認しているってことは、つまりいいんです。先生」
「ん…、ま……まぁそれもそうか」

あれ、先生納得しちゃうんだ。
いや、助かったけども。めちゃくちゃ助かったけども。幸村くん神だけど。いや、神の子だけど。




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