俺はどうやら据え膳と言うものにリアルタイムで出会っているらしい。それも想いが通じた直後に、だ。
こんな、男としてはある意味理想に近い状況な上、眼前に美味そうな詐欺師が居たら。

「わ、あっ」

「…俺は、悪くないからな」


押し倒すしか、無いじゃないか。


「は、は…。やっと本性見せたのう」
「うるさい、酷くやられたいのか」
「それ、は、ちょっとご勘弁…」

保健室の簡易ベッドに仁王を押し倒し、真上からその白い顔を覗く。大きな目、血色の悪い唇、口元のホクロ。仁王を構成している全てを、ひとつずつ飲み込むように眺めた。
まるでその全てが俺のものになったようで。俺の中に妙な支配感が駆け巡る。

どこまでも官能的なそのアングルに、俺の頭はパンクしそうだった。


「………、バカ、こんなとこでやるわけないだろ」

組み敷くときにやんわりと握りこんだ両手首を静かに開放しながら仁王の上から離れる。
これ以上この体勢を続けていると本格的に引っ込みがつかなくなる、と俺の理性が力を振り絞って叫んでいた。

「…つまらんのう」

俺に倒されたままの姿勢で仁王が虚空に向かって呟くが、なんと言われようとも俺はこんなところで仁王を抱くわけにはいかなかった。


「のう、幸村」
「…なんだよ。もう部活戻るぞ」

一刻も早くここを出なければ。
俺の中の均衡が崩れないうちに。

「お前さんの、そういうとこ。好きじゃ」
「…………そうか」
「だから…ちょっとでええからさ。ここに、チュッてして」

そう言って包帯を解くと、仁王は消毒したばかりの痛々しい痣を晒した。

「…なんで」
「痛かった、から」
「…だからって、なんで」
「赤也に残された跡じゃから…、幸村が触れてくれたら、上書きできるような気がして」

…駄目?と目線を落とす仁王を見つめる。
……あぁ、俺、本当駄目だ。
どうすればいい。
可愛すぎて、死にそうなんだよ。


「…バカ、上書きじゃ足りない。いいから早く治して、デリートしろ」


バカはきっと俺なんだ。

だって俺は、仁王の懇願するような視線から逃れてしまったのだから。
だって俺は、素直さの欠片も無い言葉を吐きながら、包帯を巻きなおしてやるしかできなかったのだから。




多分、多分。俺たちは。
こんな風にたどたどしく慰め合いながら、時には逃げながら、それでも寄り添うしかないんだろう。

だって俺たちは、バカだから。
だって俺たちは、下手くそだから。


だって俺たちは。

俺たちなんだから。












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2人とも臆病なんですよ。

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