赤也と丸井と三人で帰るときには必ずと言っていいほど寄り道をさせられる。
元気が有り余っているというのはよく分かるのだが、部活後のへっとへとな俺の体にお前らの寄り道は少々パワフルすぎるわけで。

「…ファストフードばかりじゃ太るぜよ」

いつもの店に入ると、二人は大量の食料を買い漁り席についた。
俺はと言うと二人の注文したもので既に胸焼けを起こし、ウーロン茶だけを丸井に頼んでいた。当然奢りでは無い。

「お前は女子か」
丸井にウーロン茶代を差し出しながら小さくぼやくと、そう突っ込まれる。

「そーッスよ、ちゅーがくせーは食べ盛りなんスからこれくらい普通ッスよ!ねー丸井先輩!」
「うっせ、食いながら喋んなよバカ也」

赤也が飛ばす肉の破片が俺の目の前に飛んできて眉をしかめる。
食べ盛りだけならまだ可愛いものだが、こいつの場合はヤンチャ盛り、もっと言えば喧嘩盛り。血の気の多い短気なワカメ。
いつ俺たちの手に負えなくなるのかハラハラすると言うものだ。

…本人は何も考えていなさそうだが。


「食い過ぎて太って参謀や真田にどやされても知らんぜよ」
「うっへーよ仁王」
「…お前こそ食いながら喋りなさんな」
「大体仁王先輩は栄養足りなさ過ぎるんじゃ無いッスか?かなり偏ってるし」

油ぎったハンバーガーを頬張る丸井を見て更に食欲が失せていると、赤也に偏食を指摘される。
まあ確かに。偏食は認めてもいい。
俺は基本的に好きなものしか口にしない。
だからといって別に極端に好んでいるものもないし、そのうえ元から小食なこともあり栄養が足りないとよく言われてしまうのだ。

テニス部の練習は決して楽ではない。むしろ限りなくハードだ。
だからこいつらの食欲も分からないわけでは無いのだが、いかんせん自分は上手くサボるので栄養が足りない分はなんとかなる。正規の方法では無いが、あんな練習を毎日バッチリこなしている真田や幸村のような化け物染みた連中と比べられても仕方がない。
みんなどこかしらで妥協しなければ毎日などとても耐えられたものではないのだ。
それをあいつらは…。
ふ、とよぎる真田の顔を打ち消すように頭を振った。


「仁王先輩、これ食います?」


口の周りに食べカスを大量にくっつけた赤也が差し出すそれを見ると、どうやらサラダらしかった。野菜は嫌いじゃ。

「あーあ、男前が台無しじゃな」

一応サラダを受け取り、紙ナプキンを数枚重ねて赤也の口元をぐるっと拭うと、赤也は嬉しそうに笑った。
…全く、こうしていると本当に可愛いのだが。

「仁王先輩が野菜食べるなんて珍しいッスね」
「気分じゃ、気分」

プラスチックのフォークを袋から取り出して、サラダをつつく。
野菜。野菜。野菜。
当然だが野菜だけが眼前に広がっていて少しうんざりとした。


「あー食った食ったー」

気付くと山積みだったハンバーガーが消えている。
いつも思うが、丸井の食いっぷりは畏怖を感じるほどに豪快だ。

「…お前は食い過ぎじゃ」
「そーか?でもなー、なーんかまだ足りねーんだよなあ」

丸井が腹を叩きながら恐ろしいことを言い出す。
こいつは胃袋にブラックホールでも飼ってるのか?

「アホ抜かせ、お前自分がどんだけ食ったか分からんのか」
「だってよー…。まっ、金もねーし諦めっか」

いくら食べても埋まらない丸井の腹にもうんざりする。
これじゃ親御さんが不憫すぎて同情してしまう。

「じゃあそのサラダ一口で我慢する」
「本当じゃな」

丸井のこれはあまり信用がない。
最後の一口、と言いつつも結局は更に食欲が出てしまうのだ。
ジャッカルが居たらきっと甘やかすんだろうけど。
しかし今日はもう手持ちが無いらしいので信じてやることにしよう。

「ほれ、フォーク」
「あーん」
「…何しとん丸井」

丸井にフォークを差し出すと、当然のように口を開く馬鹿一名。
誰がお前なんかにあーんなんてするんじゃ、アホか。

「早よフォーク受け取りなさい」
「あー」
「………早く……」
「あー」
「…………」
「あー」
「……………、ほれ」


負けた。
結局俺は丸井なんかにあーんをしてしまった。
うわーマジ野菜だ、という頭の悪そうな丸井の一言が耳をすり抜ける。

丸井は兄貴肌のくせに俺には妙に甘えやがるので、つい可愛がってしまうのである。
ドレッシングがついた口元を赤也と同じように拭ってやろうとしたが、丸井が「仁王って意外と世話焼きだよな」とか言うのでやめた。



俺が世話焼きなんじゃない。
お前らが世話焼かせなだけだ。

とは口にしなかったが、何だかんだでこのメンツでの寄り道は面白いのでこれからも世話を焼いてやろう、という気になった。


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