「ほんでそれからなー、気絶してもうた白石はチトセが運んだったやろー、キンちゃんのことはギンさんが宥めてあげてたしー、そんでその後の部活はコイシカワが代わりに仕切ってー、ついさっきまではコハルが白石んとこについとったんやで。もうホンッマにてんやわんややったわー…あ、でもユウジとザイゼンはただの傍観者やったけどな」
「そうですか」
「俺なんか慌ててオサムちゃんに言いに行ったんにさあ、あの顧問また職員室におらへんの。どこに行ったかと思えば屋上で一服やろ。もうホンマ許せへんよな」
「ええ本当に」
「……なあ、なんで敬語やの?」

いやいや。
敬語にもなるっちゅー話やろ。なんやねんその人数。最初のチトセってのとキンちゃんギンさん辺りまでしか頭に残らんかったわ。
なあ、そんな一気に登場人物増やすってRPG的にアカンと思うねんけどそこら辺どうなん?苗字と名前をごちゃ混ぜにされたら余計混乱すると思うねんけどそこら辺どうなん?なあ金髪、どうなん?

…と言うわけにもいかず。

「…や、なんか…申し訳なくて」

と濁すだけに留める。
それ以上の言葉は俺の綻びを露呈するだけでなく俺の精神状態までおかしくしてしまいそうだった。

「ちょ、何言ってるん?誰も責めへんに決まっとるやん!ただ心配なだけやで?白石はいつも無理ばっかしとるから…ちょっとでも休めたならラッキーやんか」
「ラッキー……」
「そっ、だからいつも通りの白石で戻ったらええんや!」
「…そうやんな」

まぁ、その“いつも通り”が思い出せないから苦しいわけなんだけれども。
しかし俺を元気付けようと明るい笑顔を振りまく金髪を見ているとなんだか大丈夫なような気がしてきて、そう思ってしまっている自分に少し笑えた。これって現実逃避やろか。


それとなく金髪に前方を歩かせて部活場所までの道のりを暗に案内させている中、頭の中で必死にこの後の身の振り方を考える。
これからどうなるのか、どうすればいいのか。というより今、どうなっているのか。

いくらかの情報は、確かにある。
だが今の俺ではそれらの情報を綺麗にまとめて理解することなどできるわけもなかった。


緩慢な動きで歩を進めるが足がまるで鉛を纏っているかのように重い。左腕に感じる重苦しい感じなんて苦にならないほどに重い。
精神的苦痛ってこんな露骨に身体に出るもんなんやな…。
ずるずると踵を引きずりながら金髪に遅れをとらないよう懸命になりながら、どうにか落ち着こうどうにか落ち着こう、と呪文のように心中で呟く俺。もう歩くだけで精一杯だった。

しかし、どうにか落ち着こうにも恐怖の根源は自分自身の左腕なわけで。逃げ場がないわけで。
結局俺は玄関(らしきところ)に到着するまで一言もまともな会話ができなかった。これは当然やと思う。


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