「本当はこんなに早くマサくんと接触する予定じゃなかったんだ」
「どういうことじゃ」
「えっと…、本当はもっと計画的にっていうか、少し離れたところに降り立ってからマサくんの様子を観察して、それから慎重に接触しようと思ってたの」

それなのに急にマサくんの部屋に飛ばされちゃったからさ…、と苦笑する表情を見て、出会い頭のハルの異常な怯えようを思い出した。
せっかく計画を立ててから来たのに段階も経ずに目的のとこに飛ばされたらさすがに戸惑うよなあ…と納得する。
いくらパラレルワールドの自分だからと言っても善人だとは限らないし、もしかしたらとんでもなく性格の歪んだヤツかも知れない。
だからハルは「しばらく観察してから」と計画を立てたんだろう。
こんな気弱そうな人間を目の前にした俺ですらしばらく不信感を払拭できなかったのだから、ハルも怖かったんだろうな。

やれやれ、と思いながらタンザナイトとやらをハルに返しながら何気なく時計を見る。

「……あー」

5時50分。
夜更けに起こった非常事態は結局朝方までかかってしまったようだった。

「朝練…どうすっかな」

さすがに暢気に部活などしていられないが、だからと言って学校をサボるわけにもいかない。
こんなことになるならもう少し出席日数を稼いでおくんだったな、とほんの少しだけ反省した。

「アサレン?」
「…いや、なんでもない」

しかし今ハルを1人にするのは何だかマズいような気もする。根拠は無いけど。

「あー朝だねえマサくん」
「そうじゃな…」

俺の部屋に朝日が差し込み、それと同時に唐突に現実的な感覚が戻ってくる。

これから俺は、コイツをどう匿えばいいのか。飯は、風呂は、着替えは。
急に追いついてきた未解決問題を妙に冴えた頭で考える。

例のチップの効力は約70時間。少なくとも今日明日はハルを俺の部屋に隠しておかなければならない。
おちおち出歩かれて双子説を唱えられるのも困るから外出はさせられない。1人でダブルスなんて珍技は菊丸だけで十分だ。
風呂は俺が見張ればいいし、着替えは俺のが最適だろう。…まあ、きっと恐ろしいほどピッタリなんだろうな。
寝不足の割に鋭さを保った脳内を緩やかに回転させながらベッドから立ち上がる。

「マサくん?」
「とりあえず午前だけ出掛けなきゃいけないんじゃけど…、1人で待てるか?」

助けて欲しいと言われた手前やはり1人にするのは気が引けるが、俺にも俺の生活がある。
とりあえず今日は早退をすることにして、帰ったら詳しく話を聞こう。

「え!この部屋に居てもいいの?」
「あぁ。…むしろこの部屋以外には行かんで欲しいくらいじゃ」
「良かったあ。俺、他に行くとこなんて無いから…」

そりゃそうじゃろ、と心中で静かに突っ込みながら俺は笑うハルの顔を眺めていた。


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