……痛い。

地面へと帰還した直後、ウチらはまるで来日したてのパンダのような状況に陥っていた。
無遠慮に寄せられる数多もの視線。そして聞こえる小さな囁きのような感想。ちょ、誰や今「美女と野獣」って言ったの。

「千歳」

不躾な雰囲気と隠す気も無いような周りからの興味をやんわりと甘受しながら、隣の千歳の腕を引く。
節穴め。どこが野獣やねん。こんな可愛らしい千歳が野獣やったら今頃世の中バケモンだらけや。言っておくけどな、千歳が野獣になるんはベッドの中だけやね…って、違う、違うで。落ち着け蔵乃。今は朝や。

そうだ。早いところクラスを確認してここから立ち去らなければ。うん、そうだ。

「えっとー……」

そそくさと前へ躍り出ると、少しだけ背伸びをしてそのクラス表を眺める。
遠くから見たときは分からなかったが近付くとクラス表を貼り出している看板は千歳の頭のてっぺんと同じくらいの高さだった。
その看板には所狭しと名前が並んでいて、さすがに一瞥しただけでは自分の名前が見つからない。

「上のほう見えづらいなー…」

時間もかけられないし、やっぱりここはセオリー通りに手分けしていこう。

「千歳。ウチは下から見てくさかい、千歳は1組から見てってや」
「………」
「……って、千歳?」

そう言えばさっきから何も言わないな、と黙り込んでしまった千歳を不思議に思って見上げると、少し怪訝そうな顔をしている顔が目に入る。

「え、どうしたん?」

若干不機嫌そうとも取れるような千歳に優しく声をかけると突然千歳がのそりと背後に回ってきた。
ウチの身体をスッポリと覆い隠すように立ち、右手は何となしにウチの腰へ。

「え、ちょ、なんや?」
「…生足保護」
「へ?」
「さっきから…何か、蔵が見られとるから」

そう言うと千歳はそのまま看板の上に左手を乗せて、何事も無かったかのようにクラス表をじっくりと眺め出した。

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