緊張でドクドクと脈打つ胸を期待で上塗りしながらゆっくりと校門をくぐると、玄関のガラス戸の左右に大きくクラス表が貼り出されていた。
上から2年生のクラスが1組から順に並んでおり、そしてその下に1年生。

「千歳っ」
「はは、分かっとうよ」

早く見に行こう、と繋いでいた手を引いて小走りすると、小さく笑いながら千歳もペースを合わせて走ってくれる。
どんなに頑張ったところであの千歳の歩幅に勝ることなどできるわけもないのだが、それでも負けじと足を早めてしまう負けず嫌いな自分に苦笑してしまう。
「そんなに走ったら見えるばい」と言われたが、何が、とは聞かなかった。さっきから千歳スカート気にし過ぎやろ。


んー…結構早めに着くようにしたつもりやったけど…、やっぱり混雑は避けられへんかったか…。

新しいクラスになるのは新入生だけでなく2年生もだからやろうな。とにかく人だかりがすごい。
混まないようにと左右に同じクラス表を貼り出しているにも関わらずその両方に同じくらいの人が集まってしまっているのだから仕方がない。

「…見えへん」

精一杯背伸びをしてみるが何も見えない。一生懸命になって踵を浮かしながらぴょんぴょんと跳ねてみてもてんで駄目。

……ウチだって173もあるんやで。決して小さくなんてないはずや。むしろデカ過ぎて嫌になってまうくらいなんや。…なのに。
見えるのは前方の方に固まっている2年生の集団の後頭部のみ。

まったく、見たなら早よどいたらええのに!意味も無くモタモタして新入生いびりでもしたいんか!

「千歳、見える?」
「あー…上の方はかろうじて」

背伸びもジャンプも歯が立たないのならと千歳の長身を頼ってみるが、自慢の身長を持ってしても上方の一部しか見ることができないようだった。

「1年のは下の方やし…これじゃ人が捌けるまで見られへんなあ」

せっかく千歳を起こして早めに学校来れたのにこれじゃ何の意味もあらへん。…ウチの朝の苦労は何やったんやろか、と思わず肩を落として溜め息をつく。
早々にクラスを確認したら千歳と一緒に学校の中を探検しようと思っていたウチの計画は早くも崩れかけた。この調子じゃ、教室に入るやいなやすぐに入学式やんなぁ…。


「…あ、じゃぁこぎゃん風にすれば見えっかも知れんばい!」

「え?なん……、っぅあ!?」


急に大きな声を出した千歳に、一体なんやろ?と振り返ろうとした瞬間。


「…ちょっ、ッおま…!千歳!?」
「見えたー?」


目線が急激に高くなる。
先ほどまで後頭部しか見えなかった2年生が、今は頭頂部から見下ろすことができてしまっていた。

…もう説明は要らないだろう。あろうことか、ウチの身体は千歳によって持ち上げられていた。
脇の下に手を差し込んで軽々と持ち上げてくれた千歳はホンマに男前やけど、…これじゃ目立ち過ぎるやろ!

スカートが捲れない程度に足をバタつかせて千歳を睨むが、キョトンとした顔で「まだ見えんと?」と言われて口を噤んだ。駄目だ、コイツ。手に負えない。

当然ながら、ウチらは目立った。
2メートルに達する程の長身男に持ち上げられる女。そんなんウチだって凝視するわ。

しかし千歳のその珍行動のおかげで、いつの間にかクラス表の周りからは人が消えていた。いや、消えたというか、左右に捌けてくれた。
「これで見やすくなったばい」と笑ってウチを地面へと開放した千歳に、まさか確信犯なんじゃ…という疑問を抱いたことはここだけの秘密である。

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