駅は少し混んでいた。

ガヤガヤと騒がしい構内を目的のホームに向かって必死に歩く。
その間千歳は人ごみに持っていかれそうになるウチの肩をしっかりと抱いてくれていた。
この大勢の人の中でも頭ひとつ飛び出した千歳にくっついていると、何だかすごく安心して、同時に優越感も感じた。

ホームについてすぐに電車が来たので2人でそれに乗り込む。

さすがに座るところは無かった。それどころか相当の混雑具合で四方八方に人が居て窮屈だ。
千歳は大丈夫やろか、と見上げると、つり革を頭に乗せて「ん?」と言う顔でこちらを見る。
その間抜けさに愛らしさを感じてほくそ笑むと、「苦しくなか?」と聞かれる。
「…少しな」と苦笑いすると、突然千歳は混雑を掻き分けてウチを壁際に引っ張った。

「ひゃっ…、ちょ、千歳っ」

急に引っ張られて慌てていると、壁際に押しやられたウチの頭の横に両手をついた千歳は、

「ほら、これなら苦しくなかとやろ?」

と笑った。


……アカン。今めっちゃドキッとしてもうた。かっこ良すぎやろ千歳…。行動までイケメンやなんてほんま反則や。いや、アウトに限りなく近いアウトや!
いつもはふらふらしていても、こう言うときの千歳は本当に“男の人”って感じでめっちゃ頼りになる。

間近にある男っぽい精悍な顔を見つめて「ありがと。」と呟くと、千歳はふっと笑った。だがその優しい顔にどうにも耐えられずに俯いてしまう。
こんな至近距離に千歳の顔があって照れない奴なんていないと思う。


電車に乗っている15分間ずっとその体勢をキープしてくれていた千歳に申し訳なく思っていると、「白石が痴漢にでもあったら大変やからね」と言ってくれた。
それが嬉しくて「じゃあこれから毎日守ってや」と冗談交じりに言ってみると、「当たり前たい」と言う返事が返ってきて思わず目を見開いた。

気まぐれな千歳のことだから、こんな約束は諸刃の剣だ。そんなことは、分かっている。
…でも。間髪居れずに言ってくれたその言葉が余りにも嬉しくて。

ウチ、今日だけで何回千歳に惚れ直したか分からんわ。


電車を降りて再び混み合う駅内を歩かなければならないときも千歳は肩を抱いてくれた。
その上、何度も「人酔いしとらん?」やら「平気?大丈夫?」やら色々と声を掛けてくれて。ウチは胸の高鳴りを誤魔化すので必死だった。
登校中の千歳なんて中学時代は知らなかったけど、こんなに世話焼きやったんやな…とドキドキする。

そうしてやっとのことで駅の外に出れた。目的地の高校は駅前やから、もう見えるはずやな。

「あ。あれっちゃね」

道路を挟んで斜め左前の方に校門が見えた。自分たちと同じ制服を着た生徒がそこに入っていくのを見て、それに続くように道路を横断する。

「あー…なんや、ちょっと緊張してきてもうたかも…」

繋いだ手をぎゅ、と握ると、千歳はぽやぽやと笑いながら、

「そうたいねえ」

と握り返してくれた。


お前は………絶対してへんやろ。

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