「とりあえず…っと」

台所に立って冷蔵庫を開けると、さすが自分が管理しているだけあってとても綺麗に整頓されている。
んんーっ!絶頂!

「昨日の残りでちょっと作るか」

昨晩の食卓にはきんぴらごぼうと豆腐が並んだので、今朝はその二品を簡単にアレンジして済ますことにしよう。
米は…、千歳の奴また炊いとらんみたいやし、仕方がない。パンや。

ぐるぐるとレシピを考えていると千歳が洗面所から戻ってきた。
どうやら千歳は朝シャンをしてきたらしく、頭にタオルを乗せながら席につく。ええ香り。
鼻孔をくすぐるシャンプーの香りに、やっぱり朝シャンは最高やなあとうっとりしていると、千歳は新聞を読み始めた。
こんなお父さんみたいな千歳が好きだ。

「千歳、パンでええ?」
「よかよー」

オーブントースターに冷凍してあったパンを2枚並べ、きんぴらと豆腐を混ぜてマヨネーズで和えたものをその上に乗せる。
そして焼き上がるまでの間にコーヒーを淹れ、ついでにベーコンも焼いた。

「できたでー」

焼きあがったトーストの上にベーコンを乗せれば完成。ちなみに二枚とも千歳のものである。

「おー、うまそうばい!」
「昨日の残りなんやけどな」

早速かぶりつく千歳。
途端にうまかうまかと連呼されて正直少し照れた。

「食べ終わったら台所にさげといてな。ウチ布団あげてくるから」

一人暮らしの千歳の家にはほぼ毎日来る。
よく世話焼きだと言われるが、こうでもしないと千歳は不摂生すぎて見ていられないのだ。
放っておけば学校に来ない。
腹が減らなければご飯も食べない。
寝たいだけ寝る。
とことん自由なのだ。

「千歳、寝間着洗濯するからもう制服着てきてや」
「洗濯までしてくれると?」
「今更やろ。洗濯くらい自分でやるって言ったくせに…あんだけ洗い物溜めてよく言えたな」
「はは、そうっちゃね」


何だかんだでもう結構いい時間だ。
最後に今朝千歳が使ったタオルを洗濯機に投げ込みスイッチを押し、台所へと走る。
昼ごはんの下ごしらえだ。
きっと今日は午前で終わるだろうし、そうなれば自動的に昼も作ることになるからだ。

先ほどの食器をちゃっちゃと洗い、米を磨ぎ炊飯器へ突っ込んだ。こちらもスイッチをポン。


「蔵、着替えた」

「おー早かったなあ、ちと……、…」


………なんてことや。


「蔵?どげんしたと?」


なんてことなんや。


「もしかしてなんか変なとこでも……」


さ…最高やんっ!


「ちぃちゃーん!ブレザーめっちゃ似合うやーん!えーなにこれめっちゃかっこええんやけど!めっちゃエクスタシーなんやけどー!」
「へ…、ちょ、蔵?」
「あーほんま似合うわあ…。ウチな、正直千歳には学ラン以外なーんも似合わん思てたんよ。でもブレザーも全然ええやん!もうめっちゃええ!やっぱり素材がええと何着ても似合ってまうんやなあ?足の長いのも映えとるし…うん!やっぱかっこええ!」

捲し立てるように一通り言うと、千歳はちょっと困ったような顔をしつつも嬉しそうだった。

「蔵も、そん制服すごく似合っとう。割烹着着てたときは見えんかったけど…ほなこつむぞらしか」
「うまいこと言うて!千歳はかっこええよ」

お互いに隅々まで褒めあっていると、どうやら本格的に時間が無くなってきたようだ。
予めギリギリの時間に設定してあったアラームが鳴る。

「あ、もう行かんと」
「昼もまた来るっちゃろ?」
「え?まあそのつもりやけど」
「また蔵のご飯食べれるばい」

そう言ってふにゃっと笑った千歳に、白石は胸中で「絶頂…!」と呟いた。
本当にこの巨人は可愛すぎる。

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