千歳とお付き合いをするにあたり、確認しておきたいことが幾つかあったのだ。 「ちぃ、ここに座りんしゃい」 畳の上に正座をし、向かい側の空間に指をさしながら言うと千歳は素直に従って座った。 でかい図体の割に座高が低いのは足が長いからなのだろうか。(だとしたら同じような高さに目線があるのにはすこぶる不満だ) つい先程付き合うことが決まったばかりではあるが、別に昨日今日の知り合いでは無いのでよそよそしい雰囲気はまるで無い。 むしろ実家並みの落ち着き振りと言っても過言では無いかも知れない。いや、ここは千歳の実家だが。 千歳が「俺ら付き合わんね?」と言い出したのも、お互いに思い思いのことに没頭している真っ最中のことだった。千歳は万年床で雑誌を読みながらゴロ寝、俺にいたっては手品の練習をしている最中に、だ。 雰囲気やタイミングに重きをおく気など全く感じられない、それこそまるで「ちょっと腹へらね?」と言うのと何の大差もないくらいの口調だった。 目の前で首を傾げながら正座をしている千歳はなんかちょっと可愛らしいけれど、ロマンチックの欠片も無いような告白をされて俺は少しムッとしている。 さっきまではただの幼なじみ。 でも今はもう、恋人だ。 千歳がそういうことに関して希薄であるということはよく知っていたけれど、こんな流れで言われてつい「ええよ」と顔も見ずに相槌してしまった俺のことも考えて欲しい。 大体千歳の呟きに意味があることなんてほとんど無いのに、今回に限ってそんな意味有りすぎなことを言うからこんな変な感じになっているんじゃないか。 つい話の内容も何も理解しないまま肯定の意を伝えてしまった俺にも非はあるかも知れないが、どちらかと言うと千歳の方に過失があったと思う。 「…なあ、ちぃ」 「なんね?」 「付き合うって、どういう意味の付き合うなん?」 もしかしたら何かの間違いかも知れない、と一応聞いてみる。 「……?」 途端にハテナを浮かべる千歳に俺は色々と悟ってがっくりと項垂れた。 「どういう、って言われても…。デートしたりチューしたり、付き合うってそういうことやなかね」 至極当然とばかりに言い放った千歳に頭が痛くなる。 根本的に違う! 「付き合う付き合わない以前に、俺らは男の子じゃろ?…俺だってさすがに性別は騙して無いぜよ」 「…?男同士が付き合っちゃいかんと?」 「いかんも何も、ちぃは男が好きじゃったんか?」 「……男が好きってこつは無か」 「だったら何で俺に付き合おうなんて言うんよ…」 「ばってん雅治んこつは、好いとうから」 「なっ……」 俺の頭に大きな手のひらを乗せて千歳がふ、と笑う。 ……駄目だ、顔が上げられない。 「……恥ずかしい、やつじゃ」 顔に集まっていく熱を誤魔化すように更に俯くと、目の前の大男は身を乗り出して俺の顔を覗き込み、 「雅治だってええよって言ったっちゃろ?だったら俺ら両想いばい」 とか言いながらふにゃりと笑いやがるので、俺はついコイツならええかも知れん、なんて思ってしまった。 (浮気はしてもええけど、本気になったら許さんよ) (ならんたい) (ちぃはいっつもふらふらしとるからいまいち信用できんぜよ) (昔っからずっと雅治のこつしか好いとらんけん、信用して欲しかー) (……………それ、マジ?) |