やはり皆そう思うよな、と自分の考えが妥当であったことに安堵する。
そうだ、普通バスケットっつったら弁当だ。

でも。

「でもまさかあの白石が全部食うわけや無いやろ?健康第一のアイツが。しかもあんなでかいの」
「そうなんっすわ」

明らかに一人分では無い。
となれば。

「誰と食っとんのやろ?」
「本当っすね。謙也さんフってまで一緒に食いたい人って誰やろなあ」
「…お前いちいちうるさいねん」

しかしそれは正直気になるところであった。
以前までは普通に俺と食べていたし、確かに白石は弁当(自分お手製)だったが通常のサイズだったはずだ。
決して小食と言うわけではない白石だが、どうやらあれは計算された容量らしく、あれより多くても少なくてもアカンのや、と口を酸っぱくして言っていたのを思い出す。
やっぱり聖書やし、栄養管理も完璧にしとるんやなあと感心したものだ。

だがある時をきっかけに白石は俺と昼を共にしなくなり、あの例のバスケットを抱えて登校するようになった。

更に注目すべきは、1日ごとにバスケットの色が違うということにある。
昨日は薄い茶色のバスケットを持ってきていたのに、今日は濃い茶色のバスケットを持ってきているといった具合に。
しかも、朝は薄い茶色のバスケットを持ってきていたはずなのに、昼休みが終わりクラスに戻ってきた白石が手にしているのは濃い茶色のバスケット、というのがお決まりだ。


「…まぁそこまで分かっとんのやったら、大体は察しがつくと思いますけどね」
「な、お前、読心術か」
「全部口に出しておいてよう言えましたね」

まあつまり。
白石があの妙な習慣をつけた理由は、最近うちに転入してきよったでっかい奴が絡んでいる。と俺は読んでいる。
奴は、まともに授業を受けん上に部活も気が向いた時にしかやらんと言う筋金入りのアンポンタンや。
当初白石も色々と気を回して大変やったろうと思う。

簡単に言ってしまえば。


「…千歳のやつ、毎日白石の弁当食えるなんて役得もええところやんけ」
「なんの役っすか」


そうや。千歳や。
転入したばかりの右も左もよう分からん千歳に甲斐甲斐しく世話を焼き続けた筆頭は白石だったし、ふらふらと気まぐれな千歳を毎日執拗に部活へと引っ張ってきていたのも白石だった。白石がもともとそういう性格であるということは重々知っていたが、何故あそこまで千歳に執着しているのか不思議でもあった。
そして俺はそんな光景を見て、何故なのか物寂しく感じてしまっていたのである。

…この感情は、つまり、アレや。


「あーあ、ほんま男の嫉妬って見苦しいっすね、謙也さん?」
「……誰が誰に嫉妬やねん」
「あれ?謙也さん、親友やったはずの白石部長とられて千歳先輩に嫉妬してるんやなかったんですか?俺てっきりそうやと思ってましたわあ」

わざとらしい声でニヤニヤしながら財前にそう言われ、そんなんそうに決まっとるやろ、と心中で悪態をつく。
白石っちゅー完璧なイケメンが親友で、独占欲が働かんヤツなんておらへんやろ。

「…親友とられた気分や」

食べ終えたサンドイッチの袋を右手でぐしゃり、と丸める。

「どうせ…俺みたいな親友よりも、世話の焼ける友達の方があいつは気になるんや……」
「でも白石部長が千歳先輩の世話焼いとるんは、友達とかそう言う理由だけとちゃうと思いますけどね」

財前がパタリと携帯を閉じながら言った言葉に、「え?」と首を傾げると、「…嫉妬までしとるくせに、そう言うことにはやっぱり鈍感なんすね」と呆れられた。

「なんやねん、それ」
「分からんなら分からんままの方がええと思いますよ」
「ちょお財前!」

鼻で笑いながら席を立つ財前を追いかけようすると、「謙也さん。俺、連れションは勘弁やで」と言われてまんまと逃げられた。

しかも去り際に、

「ニブいニブいとは思ってましたけど、まさかあんだけ近くに居ながら自分の嫉妬心にしか気付かないなんて。ほんま謙也さんって、どこまでいっても謙也さんっすわ」

と言われる始末。



「……ーっ!なんっやねん!」

俺はどうにもならん感情を全力疾走によって解消することにして、財前の教室を飛び出した。




「……アホや」

そして自分の真横を通り過ぎた疾風に、財前はボソリと呟くのだった。


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