白石は最近荷物が多い。

テニスバッグ、エナメルバッグ、手提げ鞄といった白石にとっては通常通り(一般の生徒に比べたらきっと多いくらい)の荷物は勿論のこと、近頃はそれに加えて大きめのバスケットまで持ってきているのだ。
そのため毎朝一生懸命になって校門をくぐり、階段を上り、教室に辿りつく頃には既にぐったりとしていることを俺は知っている。
いや、俺は、というよりは、既に周知の事実というか何というか。
普段から何かと視線を集めやすい白石が毎朝毎朝そんな大荷物で必死に歩いていたら誰もが気になるのはもはや必然的で。
よって“おばあちゃん”よろしくな感覚で手伝ってあげようとした者もいた(当然俺もだ)。

しかしながら白石は決まって、

「平気や、ありがとうな」

と愛想を振り撒き、一向に荷物を持たせようとはしなかった。
特にバスケットへのガードは固く、内容を聞くことすら叶わずじまいである。

この、親友の俺でさえも、中に隠されているものの正体は知らないのだ。


……とは言うものの。


バスケット、と言えば大抵中身は決まっているようなものだ。
だがしかし、みんな(俺もだが)、何故ソレを毎日毎日あんな大変な思いをしてまで持ってきているのかということは知らない。
しかもあんなに大きなソレを。



何故。







「謙也ー、俺ちょっと今日も昼一緒に食われへんねんけど財前空いとるん?」
「おー大丈夫やで、いってらー」
「毎度毎度悪いな。ほな行ってくる」
「あいよー」

いつものやり取りを交わした後、白石は例のバスケットを両手に持ち教室を後にする。
そして俺はいつものように財前の教室に行くのだ。とは言っても財前の昼は大抵軽めなので俺が行く頃には食べ終えている場合が多いけれど。
財前は俺が食べているのを見ているか、たまに話すというのがほとんどだ。
悪いなぁとは思うが財前が「謙也さん見てんの面白いから別にええですわ」と言うのでいいことにした。


「財前、昼食おー」

財前のクラスに行くと、やはりもう財前は昼飯を食べ終わっており携帯をいじっていた。
俺の声にピクリと指を止めて横目でこちらを見やる。

「…また部長にフラれたんすか」
「お前開口一番それは無いやろ」

何だかんだ言いつつもちゃんと相手をしてくれるので財前はいい奴だと思う。
俺がコンビニのサンドイッチをがさがさと漁っていると、財前は何故か怪訝な顔をした。

「ん?どうしたん?」
「…謙也さん…、そない味の濃そうなモンよう食えますね」
「え?これ?」

コンビニの袋から顔を出したマヨチーズとんかつサンドを見て「そうか?」と呟く。

「絶対健康に悪いっすわ」

おえ、とわざとらしく舌を出した財前に「ぜんざい狂のお前に言われとう無いわ」と言い返すと「それもそうっすね」と言われ、そのまましばらく内容の無い会話を続けていると、ふと財前がこんなことを言い出した。

「あ、そう言えば謙也さん」
「んあ?」

噛み付いたサンドイッチを噛み千切りながら返事をする。

「白石部長の、例のバスケット」
「おん」
「絶対弁当やと思うんすけど…どう思います?」

携帯から視線を外さないままの財前の言葉に、トンカツサンドを咀嚼しながら頷く。

「……せやな、俺もそう思うわ」





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