「…で?お返事はどうなのかな、仁王」

余りにも意地の悪い質問だ、と思わずゲンナリしてしまう。こいつは、幸村は、勝てない戦に槍を闇雲に振り回して無謀に突っ込むほど頭の悪い奴じゃない。
勝ち戦だと確信してるくせに、相手にはっきりと言わせないと気が済まない。…マジ、俺ってなんて奴を好きになってしまったんじゃろうな……。

「……分かって聞いとるくせに。本当、お前ほど白々しい奴は見たことがないぜよ」
「そうかいそうかい。それは褒め言葉として受け取っておこうか」
「勝手にしんしゃい……」
「そう?じゃあ勝手にするね」

幸村はそう言って俺の首筋に噛み付いた。

「いっ………!」

唐突過ぎて話にならない行動に頭が白黒に点滅する。シャツの襟元を親指で横に広げながら俺の首筋の一点に唇を寄せ、幸村は歯を立てる。

「ちょっ…っと!お前!幸村!おい!何さらすんじゃ!?」
「ふう、これでしばらくは大丈夫かな」

何が大丈夫かな、じゃ!

「あ、言っておくけど俺、相当独占欲強いから。それに、お前が俺に靡いたって証が無いとやっぱり不安になるからさ、許せよ?」
「許すも何もないじゃろ!…て言うか俺色素薄いんだからこんな強く跡残されたらマジでしばらく消えないじゃねえか!」
「あはは、仁王は白いからねー。俺の歯型がよく映えるよ」

バタバタと洗面所に滑り込み、顎を反って鏡に首筋を映す。
そこには素晴らしい歯列によって内出血を起こした俺の貧相な肌が晒されていた。

「……俺、とんでもない奴に惚れられたんじゃな…」

血を吸われないだけまだマシか。


「にーおーうー。…そんな嫌だった?」

鏡の前で呆けていると、追ってきた幸村が鏡に映った。とぼけた顔をしながら相変わらずの白々しさで両手を合わせている。

…ほんの数時間前までは、本当にただの部活仲間で。友達、と呼べる間柄ですら無かったのに。
俺はそんな数時間前までほぼ他人に近かった人間に、歯型を残されて。

「ごめんってー。明日の部活サボらしてやるから機嫌直せって、な?」

……少しだけ、特別扱いされて。

「痛いの痛いのとんでけー」

………馬鹿にされて。
それなのに。

全然嫌悪を感じていない自分が、確かに胸の中には居た。



「……ねー、仁王、怒ってるの?」



この感情は、まだ上手く咀嚼しきれていないし。飲み込むまでにはまだ少し時間がかかりそうだけれど。



「…別に。怒ってないぜよ…」



ゆっくり噛み締めたら多分、消化できるような気がして。


自分と同類の男の嬉しそうな顔をぼんやりと眺めながら、首元の歯型に手を当てる。





「…………看病どころか、傷モノにされちまったなり…」



あぁもう本当に。

馬鹿げてるよ。マジで。













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無駄に長くなって
すいませんっした。



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