「…どした?」

しばらくの沈黙のあとに静かに響いた幸村の声。どうしようか。いや、どうしようもない。掴んでしまったのだから、もうどうしようもないんじゃ。

「……俺、今日、幸村がうちに来るって言ったとき…正直ちょっと煩わしかったんよ」
「………」

腕を掴んで何を言い出すかと思えばまさかの暴露。一体なんのつもりだろうと幸村は思っているに違いない。
だが俺はもうこの目の前の男へ向かって言葉を紡ぐことにしか注意力が働かなかった。どう思われようと、もうどうしようもないのだ。

「けど…、料理できたり、意外と面白い奴だったり…。今までちゃんと話したことなんて無かったけど、結構話も合ったし…」

何を言ってるのか自分でもよく分からなくなってくる。
きっと幸村はこんなドモりまくりな俺を見て怪訝そうな顔をしているに違いない。

「ずっと部活仲間、っていう括りのまま…終わるんだと思うてたんじゃ、でも…俺、まるで幸村と……」


「友達みたいだ、だろ?」



言葉を遮られると同時に、頭を掻き抱かれた。
突然の展開に真っ白になってしまった頭を、幸村は自分の腹部に押し付ける。
シャツから幸村の匂いが鼻をすり抜けて脳みそを溶かす。あれ、なんでだろう。泣きそうだ。


「…仁王、俺たちは、仲間だ。それは部活仲間、とかそう言うのだけじゃない」
「え………」

「俺たちは根元が同類なんだよ、仁王」

真上から響くアルトに近いテノールを溶けた脳みそに融合させながら言葉の意味を辿る。
根元が、同類。つまり根本的に俺たちは似ている、ということだろう。

「…似、てる……ってことか?」
「そうだ。お前は…元来他人の侵入を上手く受け入れられずに、持て余す人間だ。…だから、開いているようで、実は全く心を開いていない」

幸村の言葉を聞いて、「…お前も?」と問うと、「勿論」と言われた。「決して開きたくないわけじゃないんだよ、でも…実際に開こうと思うと、上手くその繋がりを飲み込めないんだ」

ひとつひとつ納得しながら言葉を受け入れる。諭すような、同調するような、まるで俺と幸村の心中が重なっているような不思議な感覚に陥る。
何も言えないどころか身じろぎ一つもできない。そんな俺を見て、幸村はフッと笑った。

「…お前みたいに臆病で面倒くさい奴、俺くらいしか扱えないよ。……そして、俺みたいに複雑な奴も、お前にしか扱えない」
「……そ、れ……って…どういう…」

「あれ?伝わらない?告白、してるんだけど」

まるで砂が全てを飲み込んでしまうように、俺の思考は幸村に攫われた。





「………、こ…くはく、だって…?」

たっぷりと時間をおいてやっとのことで発した言葉は、砂に水分を奪われ尽くして酷く掠れていた。

「うん。ふふふ、びっくりした?」

びっくりって。
びっくりってお前。

クスクスと笑いながら幸村は俺の頭を解放する。「告白してる顔見られたくなかったからつい締めつけちゃったよ」と言い残して。


「…実は今日、お前が倒れたときね。ずっとブン太がお前についていたんだよ」
「丸井が…?」
「そう。普通にしてたけど、目の前で倒れられて相当驚いたみたいだよ?でもアイツは今日練習試合入ってただろ、だから俺が変わりについてやることになって」

そうだったのか…。
ポケットの中に入れたままの貰ったガムを思い浮かべて、少し申し訳なく思った。

「しばらく寝顔見てたんだけどさ、寝汗凄いし苦しそうだし。もう今日は帰そう、と思って教室までカバン取りに行ったんだ」
「寝てる顔なんてそんなに見なさんな…」
「あれ、もしかして照れた?あはは。…でね、そのときに思ったんだ」
「…………うん?」

「何かこいつ、本当に面倒くさい奴だなー…って」

「…………」


おい。
て言うかそれさっきも言ったよな。何気に。


「ふふ、勘違いしないでよ仁王。俺は、お前のそう言う面倒くさくてどうしようもないとこに惚れちゃったんだからさ」


カッ。



「あはは!あれれ仁王?顔真っ赤だよ?どうしたのー?」
「……っ!うっさいわアホ!」

綺麗に澄み切った黒水晶に見つめられながらそんなことを言われて羞恥心を誤魔化せる奴がいたらいっそ尊敬してやるわ。




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