「はは…俺、なんか急に怖い話しちゃって、…ゴメンね」 「い、いや……」 もう馬鹿馬鹿しいことを言うのはやめろ、と言ってしまいたかった。 俺は喉元まで出かかった言葉と共に唾液を飲み込んで、この空気をやり過ごす。 「証拠も無しに、信じろって言う方が…無理な話だったよ」 「…………」 「マサくん、……これ、見て」 「……?」 ちゃんと、証拠あるから。 俺の目の前に立ってそう言ったハルは、左手の皮手袋の甲の部分に付いている小さなポケットから小さなチップのようなものを取り出した。……えっと、…DSのソフト…かな? まるで携帯ゲーム機のソフトばりに小さく、そして薄っぺらいカードのような金属板。 「これが、マサくんの世界と俺の世界を繋ぐチップ。まぁ…、俗にタンザナイトって呼ばれてるんだけど…」 「タンザ、ナイ…?」 「あぁ、えっと、このチップって青いでしょ?…タンザナイトって、青い宝石のことなんだけどね…。それが由来みたい」 「…………」 黙ってサファイアにしておけば覚えやすいものを…。何でわざわざそんな耳に慣れないモンを使いよるんじゃパラレルなんとかの住人は…。 俺の手のひらにそっとそのタンザナイトとやらを載せ、ハルは説明を始めた。 「そのチップには色んな種類があってね、まぁ…移動する物質とか、持続期間とかによって分けられてるんだけど…。タンザナイトは、その中でも一番メジャーなやつ」 存在しているのかしていないのかよく分からないほどに軽いその一枚のチップを眺めて、こんなんだけで世界を越えられるなんて馬鹿げている、と思った。 「…ふーん。で、この青いチップはどんな効果なんじゃ」 「持続期間は70時間、つまり丸三日間くらい、かな。移動するのは人間と、その人間の皮膚に触れているものだけ」 「じゃあ、他のもんは?」 「無機物だけを移動できるのは、プリーナイトっていう…緑のチップがあるけど…。それも緑色の宝石が由来みたいだよ」 またしてもエメラルド、とかでは無いんだな。 「なるほど……」 俺は新しく出てきた2つの単語を脳内で反芻しながら、なるべくでも記憶しようと努める。 タンザナイト、は…人間。プリー…ナイト、は、えっとつまり…荷物とかってことだよな。うん。 手の中にある青いチップを弄びながら、タンザナイトねえ…と心の中で呟いた。 「えっと、じゃあ…。このチップがあれば、お前の世界とこっちの世界を…つまり、その、行き来できる…ってことじゃな?」 「うん、そう」 できる限り己の中の常識を払拭しながらハルの話を整理する。…落ち着け、大丈夫だ。信じるんだ雅治。今はそれしかない。 「まぁメジャーと言っても、タンザナイトは使い勝手が悪いから…。単価が低いだけで有用性には欠けてるんだけどね」 「使い勝手…って、俺はお前の話を聞く限り、かなりすげえモンにしか思えないぜよ」 「だってタンザナイトは…移動する場所を選べないし…」 …そんなことかよ。 |