再度壮大な脳内会議を繰り広げた結果、とりあえず俺はその男を「ハル」と呼ぶことにした。トゥエンティーとはどうしても呼べなかった。
ちなみに俺は「マサくん」と呼ばれるらしい。アイツ…ハルがどうしてもと言ったのでとりあえず従うことにしておいた。歯向かう理由も無いからだ。

薄暗い早朝の自室を卓上ライトが小さく照らす中で、とにかく俺はコイツがどこから来たのかと言うことが気になって仕方が無い。
見た目はただの人間。それも相当気弱な。半袖の白いTシャツにブラックジーンズといったかなり普通な出で立ちは、逆に俺を不安にさせる。
いっそのこと可笑しい格好をしてくれていた方が現実から目を背けることができるのにこれではあまりにも馴染みすぎている。ベッドに腰掛ける俺の正面にちょこんと正座しているハルを見やり、小さく溜め息を吐く。
これからどうすればいいのか。他人と言えど、他人と思えるわけもない。家族として生きていくのだろうか?そんな、まさかな。

黒い皮手袋を嵌めた両手を膝の上でモジモジと擦り合わせながらこちらを見上げているハル。
…俺と同じ顔でそんな乙女みたいな行動はやめてくれ。本当に。頼む。マジで。
しかしこれがヤツの素の行動なんだとすると咎めるにも咎められない。どうすればいいんだ。
…いや、どうもしないか。

というか、そんなことよりも。

「……ハル」
「なに?」

「お前、一体どこから来たんだ?」

やっと核心に触れる質問ができたことに安堵しつつ、返事を待つ。
思えば俺は一体何を遠慮していたと言うのか。こんな状況は一刻も早く打破すべきなのだから、質問を遠慮する必要など無いのだ。

するとハルは大きな瞳をスッと伏せながら立ち上がった。

「………マサくん」
「ん?」
「これから俺が言うこと、全部信じてくれる?」
「え?あ、あぁ、うん」
「多分…長く、なるけど。…とにかく話すから。全部、話すから…だからマサくんには信じて欲しい」

そう前置きをするとハルは静かに話し出した。


「…マサくんは、パラレルワールドって知ってる?」

ハルが俺の膝の上に乗り上げる。不思議なことに何の違和感もなく受け入れた自分がいた。吃驚だ。何でだ。

「パラレルワー……。…ま、まぁ、聞いたことはあるぜよ。自分のいる世界と違う世界に、違う自分がいる…って言う、アレじゃろ」

俺の頭をやんわりと抱きこんで、そう、それだよ、と呟く。
何故俺は出会って数時間のヤツにこんなことを許しているのだろうか。何故なのかはよく分からないが、不快ではないことは確かだった。

「俺はね、マサくんの…君たちの世界のパラレルワールドに当たる世界の、人間なんだ」
「…………うん」
「俺はある方法を使って、一時的にこっちの世界に来た。君に…マサくんに、会うために」

抱き込まれたいた頭をゆっくりと離し、視線を合わせる。
話しながら段々と曇っていくハルの表情に、俺はそれを信じるしか無かった。とてもじゃないが冗談には見えない。

「俺に、会うために?」
「そう…、俺はマサくんに、会いに来たんだ」
「なんで…」
「…それは………」

少し口篭ったが、ハルはすぐに口を開いた。


「君に、助けて欲しかったから」

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