「………で」
「はい」
「…お前は、誰だ」

衝撃的な出会いの直後、数分間による壮絶な脳内会議によって俺はやっと落ち着きを取り戻した。
目に見えるほどに動揺したわけではないが俺の心中はまるで洪水のように氾濫し、混乱していたのだった。
言葉を失う俺の眼前で、キョトンとこちらを見つめる男。
それは、間違いなく俺だった。
両手に黒い皮手袋をはめて襟足もおろしたままだったが、パックリとした三白眼と口元のホクロがまるで俺。
それなのに言動や仕草が女のように弱々しくて俺はそのちぐはぐさに眩暈がした。

「…名前は?」
「名前…?」

とにかく正体をつきとめようと名前を聞いてみると、途端に不思議そうな顔をする男。ていうか俺。…いや違う。

「…まさか名前が無いとか言わんよな?」
「あ、えっと……あ、コードネームは、トゥエンティーなんですけど…」
「………」
「………あの…」

まずい。
一瞬本格的に思考が停止した。
俺ですらそんな中二真っ盛りな発言は慎んでいるというのに、こいつは真顔で…。

「悪いんじゃけど…、ふざけとるんなら通報するぜよ」
「な、ふざけてませんよっ」
「じゃあ答えろよ。お前の名前は?何で俺と同じ顔しとる?どっから入った?目的は何だ?」
「え…あ…うえ…」

まるで弱いものいじめだ。
とは思いつつも、相手を気遣う余裕すら失われていた俺はとにかく尋問をする。不安で仕方が無かった。
最初はおどおどと口篭っていたコイツもだんだんと発言が安定してきて、俺はやっとこさ幾つかの情報を得ることができた。

名前は、どうやら本当に無いらしい。というか、知らない、と呟いた。
生まれて此の方ずっと「トゥエンティー」というコードネームだけで生きてきたと言っていた。
歳は俺と同じで、身長も体重も血液型も全部同じ。あれ、もしかしてコイツってドッペルゲンガー?俺死ぬの?


「あの、君の、名前は?」

不安と焦りで頭を抱えていると、今度は俺が質問を受ける。

「俺?俺は雅治だけど」
「じゃあ雅治くんって呼んでいい?」

ぞわっ。

「…雅治、でいい」

同じ顔の奴から同じ声で「雅治くん」はキツすぎる。思わず立った鳥肌を必死で宥めながら俺は目の前の男から目を逸らした。

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