「味噌汁が余ってるね、ちょうどいいからオジヤにしようか。あとは…タンパク質も摂った方がいいな。鶏のササミ使ってもいい?」
「あ、あぁ。…うん、いいぜよ」

それから、あれよあれよと言う間に事は進み。キッチンには腕まくりした幸村。そしてリビングのソファーには傍観することを命じられた俺。
なんだこれ。どんな光景だ。

手際よくササミを湯通ししながら、冷凍庫にあったご飯を味噌汁に放り込み、鍋に蓋をする。「本当はお米から炊きたいんだけどね」と言いながらササミを菜箸でほぐし塩コショウ。そしてオジヤへ。しばらく待ってから今度は卵を割り溶かして上からかける。

「あとは煮立つのを待つだけだな」

「…………」


聞きたいことは山ほどあったが、なんとなくそれは止めておく。…そういえば、よく妹とお菓子づくりをするとか言っていたっけな。
この手際のよさは頻繁に台所に立つ人間でないと可能な芸当ではないだろう。

それにこの鼻腔を掠める美味そうな香りには逆らえるわけもない。


「でーきーたー」
「…悪いな。幸村」

鍋敷きとオジヤの鍋をリビングのテーブルへと運んでくる幸村を見て、俺も立ち上がりその他の食器を準備する。
食器棚を漁りながら、客人用の食器を出すのは初めてかも知れないなと思った。


「よし。じゃ、食べよっか」
「あぁ…。い、いただきます」

よそわれたオジヤを前に両手を合わせ、ゆっくり口へと運ぶ。
あの手つきから言ってそこまでの不安は無かったが、なんせ、幸村だ。軽々と想像の上を行くのが、幸村なのだ。

しかし。

「…あ、うまい……」
「あはは。そりゃ良かった」

オジヤの味はいたって普通だった。いや、というか、美味かった。ササミの味付けも丁度いい。
舌の上に広がる心地よい塩っぽさと食道を通る温もりにほっ、とする。

「食べ切れなかったら明日の朝ごはんにでもしてよ。あ、弟くんも食べてくれるかな?塾から帰ったらお腹減ってるだろうしね」

自分も少しずつ口に運びながら幸村が微笑む。

「…なんか色々と悪いな、助かる」
「なんだよ。仁王が素直だと気持ち悪いな」
「いや結構マジで助かったなり。もし幸村が来なかったら多分俺何も食わないで寝てた」
「だろうね、だから来たんだよ」

放っておくとどうせ薬だって飲まないんだろお前は。と言われて、確かにそうだ、と思う。

「ちゃんと頭痛薬くらい飲みなよ?…あ、それと、このオジヤ卵使ってるから明日中には食べきっちゃってね」
「あぁ、わかった」

その後少しの沈黙が訪れたが、不思議とその無音が気まずくなかった。
帰宅中のあの沈黙には耐えられなかったのに、今ではむしろ心地よくなっている。

…なんか、アレだ。むず痒い。これじゃまるで………その、アレみたいじゃないか。


「ふふ、何か俺たち夫婦みたいだな」




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