学校を出てまっすぐに俺の家へと歩き出すが、沈黙は破られない。
未だに2人分のテニスバッグを背負っている幸村と、手ぶらで右隣りを歩く俺。
今までこんな状況に放り出されたことなど一度もない。
というか幸村と2人で下校、しかも幸村が荷物持ち、だなんてとんでもない珍事だ。

ちらりと目線を移すと、少し高い位置に幸村の瞳が見える。
身長が同じでも片方が猫背であれば背の高さなんて違って見えるものだ。


「……なに?」

特に理由もなくボーっとその横顔を見つめていると、急に幸村がこちらを向いて笑った。

「そんなに俺の顔が興味深いのかい?」

よいしょ、とテニスバッグを背負いなおし、再度微笑む。


……興味深いのは顔じゃなくて、お前のこの行動だ。
という思いを込めてその双眸を睨んでみたが、幸村は「仁王の家なんて初めて行くなあ」とマイペースなことを言っていた。
そりゃそうじゃろうな。俺と幸村の関係は部活仲間で、それ以下でもそれ以上でも無いのだから。


そんな感じでぽつりぽつりと短い会話をしながら歩いていると、ついに俺の家に着いてしまった。家と言ってもマンションだけど。
幸村の背負っているテニスバッグから自宅の鍵を取り出し開錠すると、俺は振り返りテニスバッグを受け取ろうと手を伸ばす。

「…なに?」
「え、いや、着いたから…」
「……お前さ、馬鹿?」
「はぇ?」

真っ当なことを言っているつもりだった俺は面食らって妙な声を出してしまった。
あ、と口を手で押さえたが、幸村はそんなことどうでもいいと言わんばかりに俺の肩をつかむと、

「俺がここまで送ってきた目的が何だったか、覚えてるか?」

と言った。


「え…、お、俺が体調悪かったから…だろ?」
「そうだ。だったら分かるだろ?」
「………え?」

幸村の言わんとすることが汲み取れなくて首を傾げると、ハァ…とあからさまに溜め息をついて項垂れる。


「…見たところ、今家には誰もいないんだろ?」
「まあ……、そうじゃな」
「だったら誰がお前を看病するんだ」
「か、看病?」
「一体誰がお前にお粥を作って寝かしてやるんだ!」

ついには怒り出してしまった幸村に俺は途方に暮れた。
ここまで幸村が着いてきたことだけですでにお腹いっぱいなのに、まさか家に上がって看病をすると言い出すなんて。


「……わかった、わかったから」

この状況で幸村が引くとはとてもじゃないが考えられず、俺は仕方なく折れることにした。
…まあ、少しだけこの非日常を楽しみたいと思ってしまった俺が居たのは、否定できなかったしな。

「お邪魔しまあす」

俺の家の玄関に幸村が立っている。
もはや俺はそれだけで面白かった。






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