「それ本当じゃろうな」
「え?」

しかし彼は嬉しそうに笑みをこぼしたかと思うと、自分の首にかけていたタオルを俺の頭に乗せて喜んでいる。
当てが外れ、しかも訳のわからない行動をとられて唖然としてしまう。

「このタオル、俺のお気に入りなんじゃ」

口ごもる俺にお構い無しで話が進んでいく。
お気に入り、と聞いて被せられたタオルを返そうとしたが手で押し返されてさらに混乱する。

「だから、大会が終わったら返しに来てくんしゃい」
「は?」

別に今返せば丸くおさまることじゃないのかと言おうとした時、突如左腕を掴まれる。

「なっ…」

いきなりのことにぎょっとしていると、彼は俺の包帯を少しだけ解き、「ちょびっとだけ貸りるぜよ」と言った。

何が始まるのか、とされるがままにしていると、俺のポケットに入っていたマジックペンをサッと奪い取り解いた包帯に何かを書きだす仁王くん。
ちなみに何故俺がマジックペンを携帯しているかと言うと、いつどこであっても金ちゃんの持ち物に名前を書けるようにするためである。
彼の奇行を黙認していると、どうやら書いているのは数字の羅列らしかった。

「これ、俺の携帯の番号じゃき、神奈川で迷ったらいつでも掛けてきんしゃい」

使用を終えたペンを俺のポケットに差し込むと、包帯の端を指でつまみあげながらニヤリ、と笑う。
もう俺がタオルを返しに神奈川を訪れるということは決定事項らしい。

「ちょ、仁王くん、冗談にしては目が本気なんやけど…」
「あれ?四天宝寺の聖書さんは何でも真っ直ぐに受け止めるんじゃなかったかのう」

ふ、と笑われて顔に熱が集まっていく。あの強がりの一言をそんな風に利用されるなんて心外だった。
この揚げ足とり…!

「……なん、」
「理由は二つ」

なんで俺がそんなことを、と言おうとした瞬間に言葉を遮られる。
まるで次の言葉が分かっているかのようなタイミングに面食らう。

「お前さんに、興味が沸いたんじゃ」

彼はそう言いながら人差し指を俺の眉間に当てた。
白く細い指だと思っていたが、肌に感じた指先の感触はとても固く、ああ俺とおんなじや、と思った。

「興味、やって?」

眉間に当てられた人差し指から逃げるように首を捻ると、彼は小さく笑いながら手を下ろす。

「お前さんのこと、試合のDVDでしか知らんかった。だからプレイの動作は完璧に写し取ったつもりじゃけど、性格とか会話の口調は正直予想だったんじゃ」

何でもないという顔で大分人間離れしたことを言う彼に、俺は思わず訝しげな視線を向ける。
その視線を受け流しながら仁王くんは「でも何か思ってた感じの雰囲気と違った」と言い放った。

「お前さんのプレイスタイルから想像して、何ていうかもっと冷静っていうか…カチンコチンに頭の堅いやつなんじゃろうなーと思うてた」
「…ぎょうさん研究したんやな」
「そりゃあな。お前さんの細かい所作から全体のオーラまで全部分析したぜよ」
「映像だけでか」
「幸村の作戦は絶対じゃき」
「…その割りに負けとったようやけど?」
「それはそれじゃろ」

完全に彼のペースだったのが気に入らなくて言葉に少々の棘を含ませてみるが、さらりといなされてしまい更に気に食わない。

「手塚よりはやりやすかったんじゃがのう…、攻略されやすいと言えばされやすいスタイルじゃ」
「……そんなん知っとる」

その言い様に少しムッとしたが、ふっかけたのは自分だから、と閉口しておく。喧嘩をしに来たわけでは無い。






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