全国大会で目の当たりにした銀髪の男はあまりにも衝撃的で、ましてや聖書である俺のプレイスタイルを寸分の狂いもなく再現して見せたとなればそう簡単に受け流すことが出来るわけも無く。
気付けば俺は立海サイドのベンチへと歩き出していた。
謙也に「どこ行くん?」と問われたが「偵察や」とだけ答えた。

立海サイドにたどり着き、離れたところから話しかけるタイミングを探るが、やはり王者立海のベンチは何処と無く近寄りがたい。
しかし試合直後に彼が他のメンバーから少し距離をおいて腰を降ろしたのを見て、俺は思いきって近付いてみることにした。

「あの、ちょっとええかな」

さっきの試合のこともあり少し控えめに肩を叩くと、頭に乗せたタオルと銀髪の隙間から覇気の無い三白眼がちらりと見えてぞくりとする。

「…四天宝寺の聖書さん」
「どうも」

出来れば名前で呼んでもらいたいんやけどな、とは思ったが口にはしない。

「てっきり大阪は青学サイドかと思っとったんじゃがの」

応援にでも来たんか?と冗談混じり呟かれて言葉に詰まる。
まさか、君の銀髪とプレイスタイルに惹かれて会いにきました、とは言えないだろう。
それではまるで告白だ。

「あの、さっきの試合やけど…」
「いくらじゃ?」
「…え?」
「お前さん、俺から使用料とりに来たんじゃろ」

そんな切り返しをされるとは思ってもみなかったので俺は反応に困り閉口してしまう。
そりゃあ俺の大切なアイデンティティをあんなに完璧に模倣されたのだから良い気はしない。しないけれども。
だからといってわざわざここまで使用料をとりに来るなんて、俺はどんだけケチキャラやねん?
まさか大阪だからか?大阪だからなのか?もしそうだとしたら俺は結構失礼なことを言われているのではないだろうか?

「くくっ…」
「?」

一人で悶々としていると彼は先ほどまで力強く開いていた三白眼をす、と細めて笑った。

「…何がおもろいねん」

少しムッとしてそう言うと、彼はさぞ可笑しいと言わんばかりの表情で立ち上がってこちらを見る。

「お前さん予想以上に真面目なんじゃの。こんな冗談くらいサッといなしんしゃいよ」
「じょっ…」
「まぁそのくらいの方が可愛げがあって、俺は好きじゃけど?」

突然の言われ様に面食らって絶句した。何やねんこの男…。馬鹿にするだけでは飽き足らず冗談やと?
ここまで虚仮にされて言い返さないとなると、大阪浪速四天宝寺の部長と言う名が廃る。

「ま、まあ俺は真面目が取り柄やさかい?何でも真っ直ぐ受け止めてまうからな」

俺に冗談なんて通じひんのや、という意味を込めて放った渾身の一言であった。





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