君が傍に居てくれさえすれば、他には何にもいらないよ。

歯が浮くどころかもはや爆発してしまいそうなほどに気取ったセリフが、何となしにつけていたテレビから流れてきた。
軽めにとっていたヨガポーズをゆっくりと解除しながらチラリと視線を向けると、音源の正体は男前な韓国の俳優。どうやら吹き替えのようだ。
そう言えば…このチャンネルは頻繁に隣国のドラマを放映しとるんやったな、と頭の片隅で納得してテレビ画面に身体を向けると、例の男前な俳優は表情をキリリと引き締めて「君を放したくない…俺はどこにも行かないよ」と熱烈なことを言いながら小柄な女優をキザっぽく抱きしめた。


どこにも、行かない。ね。

まあ月並みと言ってしまえばそこまでではある。しかしながら、今の俺にとって果てしなく染みるセリフであることは間違いなくて。

「…メール、するって…言ったくせに」

胡坐をかいた両足の上に身体をゆっくりと倒しながら、ため息のような愚痴を吐く。毒々しく吐き出してやろうと思ったはずの俺の独り言が思いの他泣きそうなのは一体なんでなんだろうな。

「アカン、…アカンな」

男前な俳優とアイツを重ねてしまうことは、残念なことによくある話で。
アイツが韓国産の純愛ドラマに出る俳優のように「愛してる」と容易く口にするような男ではないということは、分かっているはずなのに。

「愛しとるなんて言われたら俺…、きっと一言もしゃべられへんようになるやろなあ」

あいつに甲斐性のある行動を求めること自体、間違っているのかも知れなかった。
誕生日を忘れない、とか。気の利いたデートに定期的に誘う、とか。約束を破らない、とか。エトセトラエトセトラ。
そう言った、ごく普通のことも千歳にとっては「手間」でしかない。俺が強請れば重い腰を上げてはくれるだろうが、まぁ、そこは俺だ。
そんな腰の重い千歳を俺は最高に尊重し、自分自身から湧き上がる欲を自制しながら今日までの付き合いを成立させてきたのだった。自粛、自重、我慢。当然息苦しさはある。

でも、それでよかったんや。
それが、よかった。
だって俺たちはそんな感じでここまでやってこれた。だからこれからだって、同じこと。

とは言え相変わらず当て付けかのようにひっついて夜空を眺める二人に無性にイラついた俺は、何の罪も無いテレビに向かってリモコンの信号を乱暴に送り、消した。
切ないの一言だった。


今日も俺はあいつを正当化する理由を頭の中で綺麗に整理して眠りにつく。千歳と付き合えるのはきっと俺だけやろうな、と言う締めくくりは俺の中に湧き出つつあった何かをスウ、と納得させた。


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