千歳宅には入り浸り過ぎない程度に寝泊りをすることにしていた。
微妙なサジ加減で訪問し、世話をし、やることをやり、学校に連れて行く。もはや生活リズムだった。
あまりにも日常化してしまったそのサイクルは俺たちの身体を明らかに侵食しており、世話を焼き焼かれるということや消耗品の管理など、お互いに違和感を感じる暇もないくらいに自然体で行うようになってしまっているのがやや問題である。

いや、でもこれは仕方ないと思うわ。
なんていうか不可抗力。
というか、自覚が無いわけでも空気を読んでいないわけでも無いのであるが、いざその時がきても、俺たちは何も気付くことができないというだけの話なのである。

そう例えば、今のように。


「ちょお千歳」
「んー」

教室の前で待ち伏せていると、1組の教室から見慣れた巨体がのそりと歩いてくるのが見えて迷わず声をかける。
朝餉の味噌汁パワーで放課後までモチベーションを保ってくれている千歳には、なんやかんやと用事が頼めるのが利点だ。

「今日放課後の部活どうするん?…なんか、見た感じはやらんで散歩して帰りたいーみたいな雰囲気やけど」
「あー…うん。今日はやめとく」
「なら帰りに歯磨き粉買っといてや、あとスライスチーズと卵も、安いから」
「ティッシュはよかと?」
「あ!それもや!」

本当は昼の弁当のときに言えば良かった話なんだけれども、千歳がガキのようにボロボロとこぼして食べる癖を一向に直してくれないのでそれへの気配りでそんな暇など無かったのだった。


「……相変わらず、やな」
「んー?」

手帳を千切り、おつかいの品々を箇条書きしていると背後から謙也の力の抜けたような声がする。が、振り向いている間に逃亡されては困るので振り返らずに「なにが」と聞いた。

「…いや、なにもかも」

いまいち煮え切らない謙也の言葉に首を捻るが、千歳が「白石、そう言えばアレも無くなっとう」と声をかけてきたので即座に謙也への興味は消えた。
とにかく今日は逃げられては困る。あのスーパーがポイント5倍デーをするなんて年に3回だけのエクスタシーイベントやからな。

「あーそう言えば夕べの分でおしまいやったな」と思いながらメモに付け足した瞬間、背後から奇声が上がって思わず肩が跳ねる。

「な、なんやねん謙也!」
「…!ホ、ホンマに、お前らは…ッ!」

そう言って呆れと憤慨を混ぜたような顔で俺を睨むと、謙也はバタバタと足音を立ててその場を走り去っていった。

「…謙也なに怒っとっと?」
「……、あ」

耳を真っ赤に染めながら疾風の如く真横を走り過ぎて行った謙也に酷く申し訳無さを感じたのは、それから3秒後のことだった。
あまりにも迂闊だったその行動にこれ以上無いくらいに反省の気持ちが押し寄せる。

俺は溜め息をつきながら、

「幸せボケも大概にせんとな」

と告げ、メモ用紙を千歳のガクランの内ポケットに押し込んだ。


この病気は多分2人でが存在している限り一生直らない病なのだ、と開き直るしかない現状に、俺は暢気に帰り行く愛しい千歳の背中を見つめて苦く笑うしか無かった。










ムムさん、リクエストありがとうございました。謙也くんの苦悩はまだまだ続きそうです。初々しいちとくらもちょっと爛れたちとくらも好きな私ですが、今回は夫婦夫婦させて楽しんでみました。すごく楽しかったです(笑)ちなみに謙也が見てしまったおつかいの品は伸ばし棒含めて5文字のカタカナの品です。下品ですみませんでした。またいつでもリクエスト下さいね!

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