「…6分。白石が自分の顔にみとれてる時間ばい」

毎朝の儀式を終えて清々しい気分に浸っているところへ、無遠慮に響くテノール。
む?と鏡を覗き込むと洗面所の入り口に凭れて眠そうにしている千歳が映っていた。おや、随分とお早い起床なことで。

「おはよーさん千歳。ひとりで起きるの久々やね」
「…自分の腹の音で起きた」

使用済のタオルを洗濯機に放り込んで鏡の前からよけると、だらしなく腹筋を掻き毟りながら洗面台に向かう千歳。ふわりと香った千歳の匂いにドキリ、とする。

「だからご飯もう一杯食っとけって言うたやろ。そんなデカい図体にあんな量の飯じゃミジンコの涙やって何度言えばわかるん?」
「ばってんそん代わりに白石んこつは腹いっぱい食ったけん、プラマイゼロばい」
「はいはい。ま、どっちかって言うと食ったんは俺の方やけどな物理的に」
「…え、もしかしてツラかとや?」
「アーホ、しんどかったら起きれてへんわ。いいから早よ顔洗い」

軽いジョブを入れあいながら朝の調子を見て、挨拶。どうやら今日は朝から学校に行く気があるようだ。
あー千歳と朝から一緒に学校行けるなんて貴重やなあ。何だか嬉しくなった俺は千歳用の洗顔セットを鏡の横の棚から出してやりつつ、朝の献立について考える。

「千歳、朝は何食いたい?」
「白石」
「へえ。でももう時間もあらへんしもっと簡単なのにしてや」
「んー。じゃあ昨日のスジコでよか」
「そんだけ?味噌汁は?」
「あ、飲む」

ぽやぽやとした口調で蛇口をひねる千歳の首に後ろから新しいタオルをかけ、朝餉の準備をしに洗面所を出る。
ホンマ、昨日の残りと味噌汁だけでええなんて出来た旦那や。お盛んなのも伴侶としては幸せな叫びに過ぎない。


「うまかー」

豆腐とワカメだけの平均的な味噌汁に白米とスジコを並べるだけでこの九州男児の舌は満足するらしかった。単純な千歳大好き。まあ朝飯としてはある意味パーフェクトやしな。

「それ食い終わったらさっさと着替えてきてな」
「わかっとお」
「の、割には随分とのんびりやなあ自分」

ずずず、と味噌汁をすすりながら目を閉じている千歳に牛乳を差し出すと、一瞥した後に「いらん」と言われた。
だろうな。とは思っていたので気にせずそれを飲み干しついでに豆乳も少し飲んでおく。健康健康。




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