顔面に滴るぬるま湯の粒たちを洗濯したての清潔タオルでぽふりと一拭きして、顎を上に反らす。
泡の残りが無いかを確認し、それから視線は肌の表面へ。

「…おお」

これは凄いやん、と感嘆を零しながらヘアバンドによって晒された額をさする。指先に感じる以前同様の滑らかな感触に満足して思わずニヤけてしまった。いや、ホンマに凄い。
と言うのも、ついこの間まで額に鎮座していたニキビがもう抹殺されているからだった。オトンが入荷した新発売の薬の試用という仕事はどうやら役得だったらしい。
そのまま鏡に跳ねてしまっている幾らかの水滴をタオルで拭うと、目の前の自分に近付いて目の充血を確認。

「…へえ」

あの目薬もよう効いたもんやなあ、と瞼を摘みながら白目を眺める。目ヤニも減ったし、なかなかに無駄の無い効能や。
照りつける太陽の下でするスポーツをしている以上は常に付きまとうであろう目のトラブルに、例に漏れず見舞われてしまった数日前を思い出して再び感嘆を漏らした。
これはオトンに言って入荷数を増やして貰わなアカンな、なんて考えたら、仕事のことに口を出すたびに嬉しそうな顔をするオトンが脳裏をよぎって何と無しに口元が緩む。

ふふ、と笑いながら今度は、朝の次第の中での一番の山場である歯磨きへと作業を移行する。
厳選に厳選を重ねて選び抜いた歯茎に優しく歯垢に遠慮しないエクスタシー歯ブラシを手にとり、お気に入りの歯磨き粉と共に絶妙な力加減で歯を磨く。
小学校のときに習った磨き方と順番を忠実に守ることが俺の中で一番無駄の無いやり方だ。脳内に流れる歯磨きソングに身を任せて歯垢を掻き出してゆき、締めにうがいをする。
念入りに漱いでから口を横に広げて確認すると、眩いくらいの白い歯が顔を出した。満足や。

最後に、ほんの産毛程度にしか成長していない口の周りの除毛をする。
正直この作業に時間がかからないのは有難いことなのだが、やはり男としては少し不安になるもので。
本当はもっと成長してくれてもいいんやで、と顎をさすりながら俺は自分の乏しい男性ホルモンに語りかけた。これは最早日課になっている。

全ての工程を終えてからヘアバンドを外し、改めて自分の顔を鏡に映すと、そこにはニキビも無ければ充血もしていないゆで卵肌の自分。

「はあ…エクスタシー……」

notニキビ、not充血なパーフェクト白石の再臨である。…ああ、久しぶりや。

うっとりしながら鏡に手を這わすと、目の前の自分も俺に向かって手を伸ばしている。
ああ、なんて気持ちがいいんやろう…。やっぱり、これが俺やねんな…。あぁ…。




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