秋という季節は穏やかに見えて、騒がしい。
 今年も残り僅か、と繰り返して忙(せわ)しいし。冬への準備に着々と寒くなる気候には物寂しさを感じ、憂鬱になる。
 秋ほど嫌いな季節はなかった。


「幸村にとって秋って何?」

「何って言うと?」

「スポーツの秋とか。よく言うじゃろ?」


 陽も消えかけ、オレンジとピンクに染まる空は窓枠に切り取られて、まるで絵画のようだった。本来なら今頃部活に行ってるはずなのに、俺はプリントと睨めっこ。進路希望調査だ。
 早くに部活に行っていたはずの仁王は、俺が居残っていると分かるやいなや、基礎練もサボって様子を見に来たらしい。たった今、蓮二から「仁王は相手にしないで、さっさと終わらせて来い」とメールがあったばかりだ。


「参謀は読書の秋じゃと」


 言われなくても相手にしない。しないけど……そう簡単に書けるプリントじゃないだろこれ。
 将来就きたい職業ねぇ……。
 テニスが好きだ。ガーデニングが好きだ、絵が好きだ。よく趣味から憧れの職業を見つけるといい、と言われるけど。かつての恩師はこう言っていた。

 仕事っていうのはね、苦しいことだらけだから。もし今はそれが好きでも、いつの間にか嫌いになっちゃうかもしれない。そう考えると、仕事頑張ってプライベートで好きなこと続けていった方がいいと思うだろ? まあ俺みたいに、こう分かってても趣味を仕事にしちゃう馬鹿もいるけどね。


「赤也は食欲の秋。ジャッカルは芸術の秋で、丸井は紅葉の秋じゃと。食欲やないん?、て聞いたらな、食欲は年がら年中あるけんええんじゃと」


 子供が好きなんだ、と昔言った先生はでっかい体ででっかく笑っていた。懐かしい。
 先生、俺将来どんな人間になってるんだろう。


「幸村ぁ!」


 考え事をしていたせいで、仁王の話なんてもちろん全く聞いてない。それに痺れを切らした仁王が頬をギュッと抓ってきた。


「何だよ」

「人の話聞いとる?」

「聞いてない」

「なら聞け」

「やだよ、これ終わんない」

「聞かんでも終わらんくせに」


 はぁ? お前まじウザい。どうせお前は、大して考えもせずに出したんだろ。
 因みに全部口に出した。少し睨みを効かせながら。


「ちょっと貸してみぃ。こーゆーんは、ようらでええんよ。んーと、進学希望する高校は……附高っと。でー大学も立海大、学科は未定……」


 俺の手から奪い去られたプリントは、あっという間に項目が埋まり舞い戻って来た。お世辞にも綺麗とは言えない鋭い字を見つめながら、腕を組む。


「後は、将来就きたい職業だけなり」

「……愁い」

「はっ、うれい?」

「愁いの秋だ」


 仁王は首を傾げながら、携帯を開いた。辞書機能で探すつもりらしい。
 俺はその間に、今まであんなに手強かったプリントにさらさらと文字を書く。乱暴にバンとシャーペンをしまうと、やっと仁王が「ああ、これな」と呟いた。


「ほら、部活行くよ」

「え、もう書いたん?」


 愁い。ほら、やっぱり秋って漢字入ってるじゃないかと。少し得意げになって、だらしなく尻に引っ掛かっているジャージ目掛けて平手を振り下ろした。


「いってぇ!!」

「上げろ。コートの真ん中で下ろすぞ」

「幸村酷い……」



将来就きたい職業:フラワーコーディネーターであり画家である、かっこいいプロテニスプレイヤー
幸村 精市



 趣味であり仕事であり、って何かいいだろ?
 とりあえず今はLet's play!





***

幸仁好きとしては憧れの渚子さんのサイト「忘却の蒼天下」の、1周年記念企画にてリクエストさせて頂いた幸仁です。もうこの感動は言葉になりません。拙宅には無い感じの可愛らしい幸仁ですよね。幸村大好き!な仁王が可愛くて本当に何度も読み返してしまいます。是非コートの真ん中でずり下げて頂きたいですね!

ところで私の文章を大好きだ、なんて勿体無いお言葉を頂きましたが、私の方こそ大好きなんです。今回「Sorrowful Autumn」を読んでより一層気持ちが高まっているところですよ(笑)
私もお話できて嬉しかったです。本当にありがとうございました。

最後に。
サイト1周年、おめでとうございます。これからもよろしくお願いします。

おむすでした。

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