「やぎゅうううー」

拝啓、珠のように可愛らしい声で名前を呼ばれたと思ったら、ふいに後ろから腰に抱きつかれていました。
名前を伸ばして呼びながらいつまでも私に抱きついている銀色の彼は正直とても愛らしいのですが、如何せん今は部活動の最中です。あまり構って差し上げることもできません。

…いえ、これだと少々語弊がありますね。構うのは簡単なことです。
後ろを振り返り微笑み返してやることも、「真面目に部活をしてください」と注意をして差し上げることも、私の腰元に回された白い腕の上に手のひらを重ねることも、何もかもが可能です。仁王くんとは良き友であり、良きダブルスパートナーですから。

ただし。
これは、我が部の長である彼がこちらを見てとても綺麗に微笑んでいなければ、のお話になってしまいます。

平静を装いながらも真田くんへの八つ当たりが激化していることに気付いた私が、彼に同情してしまって仁王くんに手を出せなかっただけのこと。
私は真田くんとも良き交友関係を築かせて頂いていますからね。当然のことでしょう。


彼ら――幸村くんと仁王くんがそういう仲だということは、まあ…もう既に周知の事実でありますし、部内ではちょっとした話題になっています。
仁王くんは余り広めたくないようで、いつもそういう話題を振られてもお得意の話術で切り抜けているのですが、幸村くんはどうやらそうでは無いらしく。聞かれたら割りと何でも話してしまうわけです。
そんな幸村くんのザルのような口のおかげで、今では仁王くんの髪紐のレパートリーや寝起きの機嫌の悪さ、部屋着のローテーション、更には使っている歯みがき粉のメーカーまでも周知になってしまいました。(幸村くんはプライバシーという言葉をご存知無いのでしょうか)

しかし悪気も無いように嬉々として話している幸村くんは至極楽しげなので、突っ込んでしまうのも野暮なように感じられて、皆黙ってそののろけた話を受け流すしかありません。
聞かなければ幸村くんも特別口を割ることは無いので話題もそんなに長く続かず、今では皆静かに見守るという状態に落ち着きました。


まあ…なんと言いますか。
正直なところ、彼らが長く続くとは誰も思っていないのではないでしょうか。

相手を縛り付けてぐらぐらに煮込んだ愛を歪んだ感情のままにぶつけそうな幸村くんに、ふらふらと気分のままに甘えて歩いて薄っぺらい愛を気まぐれに与え続けそうな仁王くん。(あくまで私の主観的な推測であります)

仁王くんから「幸村と付き合い出した」と聞いたときも正直冗談だとしか思えなくて、また私を騙そうとしているのだと思ったのですが、仁王くんが余りにも純真無垢に話しているので嘘だとも思えませんでした。あの時の仁王くんはいつものあのシニカルな雰囲気が全く感じられず、言ってしまえば普通の中学3年生のようだったのが印象的です。




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