二章 * …そこまではよかったのだ。 会長がせっかく高校にいるんだから、目立たないように制服着なきゃね☆と言い出すまでは… この二日間で分かったことは、最強の不老不死の魔術師である『奇跡の魔女』は、【触れられる事】に非常に恐怖心を持っているという事だった。 本人曰く、いやでは無いのだが、慣れてないから反射的に逃げてしまうという事らしい。 そして、それを聞いた会長が、だったたら慣れればいい!と言い出して彼女に触れようとするものだから、 速攻で会長は東さんのブラックリストに入ってしまった。 そんなトラウマになりかけてる相手が、制服を持ってきて着せようとしてるのだから、 いくら『奇跡の魔女』でも泣きながら逃げ出してしまうらしい。 『大人しくする』と約束したはずが、会長のせいで騒ぎなっている。 このままでは、彼女の存在がばれかねない、と彼らの追いかけごっこを静観しつつ、彼女は思った。 ほかの生徒もまだ登校していない時間だから、この光景が誰にも目撃されてないのが不幸中の幸いである。 しかし、ほっとけばいずれ誰かに見られる。 …せめて制服を着てくれればまだ誤魔化しようがあるが、今の東の恰好は黒コートに黒スーツである。 ただの不審者である。 さて、どうするべきなのか…そう悩んでいた瑞希の耳に 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 東の悲鳴と会長ではない別の男の声が響いた。 「しまった!」 想定していた最悪の出来事が起こってしまったと直観的に感じた瑞希は、声のした方に走って行った。 そして、彼女が現場についた時には東の姿はなく、竜二と男子生徒が一人。 なぜか、その男子生徒は竜二に殴られ蹴られていた。 「いたい!痛いって!!竜二やめ…痛いって!!」 そう叫んで、竜二をはねのける男子生徒。 竜二に痛めつけられていた為、彼の顔は若干赤くなって腫れ上がっていた。 男子生徒は、少し歪んでしまったサングラスをかけなおして竜二に対して怒鳴った。 「いきなりなにするんだよ!!突然黒コートの女にぶつかるわ、ぶつかった女には叫ばれるわ、挙句の果てには生徒会長様に殴られ蹴られるわ、俺なんかした?なぁ、俺なんかした?」 「うるさいよアヘン。君はそこ居るだけで害になるんだから。この麻薬」 「アヘンじゃねーし!阿片(あがた)だし!人間だもん!俺生きてる人間だもん!そうだろ、瑞希!!」 「へっ?なんで私に振るんですか!てか、なぜあなたが会長に蹴られてるんですか…」 阿片と名乗った青年に突然話を振られたことに驚いた瑞希だが、すぐに現状把握を彼らに求めた。 「…つまり、会長から逃げた東さんが運悪く阿片さんとぶつかり、それに動転してあわてて空間魔術でどこかへ行ってしまったと。 そして、東さんを逃した腹いせに会長に蹴られたという事ですか…」 彼らの話を聞いて、確認する瑞希。 そして、瑞希は本日何回目かのため息とこめかみを抑えた。 「こいつさえいなければ、もうちょっとで東捕まえられたのに」 そう苦々しく言って再び阿片の足をけり始める竜二。 「痛い!いたい!だから、蹴るなって!誰だってこんな早朝の学校で追いかけごっこしてるとか思わないだろ!」 阿片は、竜二から離れて、瑞希のそばにいき抗議した。 確かに今の時間は、実は五時半と早朝なのだ。 こんな時間に追いかけごっこしてる方がおかしいと言うべきだろう。 「で、なんで君はこんな時間にいたの?朝練?」 「ちげーよ。瑞希に呼び出されたんだよ!な?」 「呼んでません」 「って言ってるけど?」 「いやいやいや!メール送ってきただろ!ほら!証拠!!!」 阿片は、瑞希に即答で否定されたことにショックを受けたらしいが、すぐに携帯を開いて彼らに見せた。 その携帯を見た竜二は、馬鹿にしたような表情で瑞希に言った。 「ほんとだ…もーしっかりしてよ〜なんでこんなやつ呼んだの?」 「会長さんよ…ずいぶんと俺の扱いひどくないか?」 「気のせい気のせい」 そんな二人の会話を聞きながら瑞希は首を傾げる。 自分の記憶では、阿片にメールを送った記憶などない。 彼とは幼馴染だが、メアド交換した記憶すらもない程に交流は無いと思っている。 そんな彼に、一体なんの用事で自分がメールしたのかわからない。 「…阿片さんそれ本当に私ですか?」 「瑞希まで!ほらアドレスも一緒だろ!」 「…確かに私のですね」 『聞きたいことがあります。明日6時に生徒会室に来てください』 「うーん??」 「そんなに首かしげるなよ…で、何?聞きたいことって?」 「それは…分かりませ…」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 瑞希の言葉をさえぎるように再び東の悲鳴が聞こえた。 ← 前へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |