イガグリ

一章

もう終わったのかと、瑞希に問い詰めている東をなだめながら、竜二は瑞希に向って、
「おーさすが!瑞希!よっ!日本一!」
賞賛の声を上げる。
そんな竜二に対して瑞希は、ただ一言
「そんな誉めても、仕事は無くしませんから」
と彼の思惑をばっさり切った。「えーそんなー…」としなびれたホウレンソウのように打ちひしがれる竜二。
しかし、直ぐ立ち直って瑞希に抗議する。
「ひどいやい!てか、この状況でまだ仕事とか言ってるのかい君は!」

「酷いも何も、プリントは手元にありますからね。ここが無理でも家に帰るなり図書館でやるなり出来ます」

「きみは社畜か!?」
ピピ
「仕事をしないニートよりマシだと思いますが?」
ピピピ
「僕は学生であってニートじゃないよ!」
傍から見れば夫婦喧嘩のような言争いだが、この殺伐とした現場には似つかわしくなかった。
フーフーとお互い息を整えてしばらくの沈黙が続いた。
そして、何か時計のアラームの様な音だけが教室に響いてる事に気がついた。
「…あの会長。携帯なっていますよ?」
ピピピピ
「僕じゃないよ?瑞希のじゃないの?」
ピピピピピ
「ここから聞こえてるみたいだぞ?」
そう言って、東は槍の方に視線を向けて指をさした。
ピピピピピピピピ
再び沈黙が訪れ、音だけが響いている。

気のせいか、だんだん大きくなっている。

「…これって、もしかしてやばい系?」
相変わらず普段の笑顔は崩してないが、口元がひきつっている竜二。
「やばいだろうな」
「やばいですね」
「「「………」」」

また沈黙が訪れる。
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