一章 「この槍からは特殊な波長が発生してるんだ」 「特殊な波長?」 「そう。魔術にはそれぞれ波長がある。その波長を相殺すれば特定の魔術を無効にできるんだ。 ほら、よく物理でやる位相の応用だよ。確かこの街のセキュリティも、それと同じ仕組みじゃなかったけ?つまり、この槍から発生する波長は東の魔術だけを無効化するように作られていたんだ。だから、僕の能力は普通に効いたわけ。まぁ僕のは魔術じゃないけど。でも東以外だったら、例えば瑞希の魔術なら同じように効くはずだよ。それにこいつが突然現れたり消えたりしたのは光化学迷彩を使っていたからなんだ。なんて言うんだっけ、シースルーってやつ?」 説明しながら、氷漬けの槍に触れる竜二。 「シースルーってなんですか。ステルスですよス・テ・ル・ス」 「おいミズキ、突っ込むところはそこじゃない。その波長の相殺ってのが、本当に魔術の無効化に関係あるのか?」 そう東に突っ込まれ、一瞬顔をしかめた瑞希だったが、すこし何か考えたような素振りを見せて言った。 「確かに会長が言ってた原理は対魔術セキュリティの基盤になってます。ただ、魔術の波長と相殺できる波長を完成させる為には、膨大な時間と費用が掛かります。それに、対象となる魔術から何百回も直接波長を検出して正確に測定する必要があるんです。だから莫大な時間と費用がかかるのでそう簡単には出来ないものですが…」 「信じられんな」 近くの椅子に座りながら首をかしげる東。 そんな彼女の様子に困ったように眉を寄せながら竜二は話を続けた、 「試してみればわかるよ。僕の仮説が正しければ、槍の波長を出してる部分を破壊することで、東の魔術も効くはずだよ。瑞希やってみて」 「なんで私がやらなきゃいけないんですか」 「だって、瑞希の魔術は分解、解析、解除が十八番じゃないか」 「…はいはい。分かりましたよ」 ため息交じりに返事をして、足のホルダーから手のひらサイズの針を数本取り出し槍の周囲の氷に突き刺した。 それを位置を変えて二三回繰り返す瑞希。 「…あれは何してるんだ」 いつの間にか竜二の横にいた東が問う。 「さっき言ったじゃん。波長を出してる部分を探してるんだよ。君は本当に話を聞いてないね…それとも鳥頭なの?」 「と…鳥頭!?」 竜二の言葉に顔を引きつらせる東。そして何か文句を言おうとした時、 「破壊しましたよ」 瑞希が作業を終わらせたようで、竜二達の所へ戻ってきた。 ← 前へ → 次へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |