一章 「…あれ、ここは…」 気付けば、瑞希は屋上にいた。 「…あそこだと狭いからこっちに移動した。貴様らを置いても良かったんだが…人質にされたら面倒だからな。」 そう言ったのは、先ほど体を裂かれたはずの東だった。 「……?…さっきのは…ゆ…め…?」 「…なんだ?その幽霊でも見たような顔は。まぁ…さっきのは私もびっくりしたな。まさか、体を裂かれるとは…。それも綺麗に真っ二つにな」 まるで薪がこう割れる時のようだったな、と楽しそうに手で表現している東。 彼女の言葉から、先ほどのアレは夢ではないらしい。 「……っ。なんで貴女そんなに楽しそうなんですか?」 「いや…だって、初めて死んだ感覚を味わえたんだぞ?そりゃテンションが上がるってものじゃないか。分かるだろ?」 「全く分かりません。分かりたくもありません」 「即答かい…」 そう言って東は肩を竦めた。その仕草は、最初の印象よりも幼く感じられた。 「そういえば、さっきのアレは何だったんですか?」 「知らん」 「………」 「そんなあきれた顔するな。しょうがないだろ。私もアレに手こずっているんだ」 「…といいますと?」 「この街に入ってから頻繁に襲われるようになってな。魔術を使っても効かないし…操作してる奴も見つけられなくてな」 「魔術が効かない?…そんな馬鹿な」 東の返答に眉をしかめる瑞希。 そんな彼女の様子を見て、貴様も魔術師だったかと呟く東。 「まぁ、驚くのは無理もない。私も驚いた。魔術は、修行さえすれば老若男女問わず使えるものだが、その全てが、世に存在するものに効く。それは奴も例外ではないはずだ…だが、本当に効かないんだよ」 そう言った後、東は小さく「なんで私がこんな目に…」とぼやきながらこめかみに手を当てていた。 その様子を見て、頭痛いのはこっちの方ですと思わず悪態をつきたいのを瑞希はグッとこらえた。 「…一体どういう原理でそうなっているのか…会長はどう思います?…あれ、会長?」 自身の疑問を投げかけようと幼馴染の姿を捜す瑞希。 しかし、屋上には東と瑞希の他に生徒会室にあったぬいぐるみがあるだけである。 「……東さん」 「なんだ?」 「会長がいないんですが…」 「えっ?お前の横にちゃんと飛ばしたつもりだが…」 と指差した方向には、ぬいぐるみが。 「ふふふふ…貴女の目は節穴ですか?ただの飾りですか?どこからどうみて、あれを会長と思ったんですか?」 拾ったぬいぐるみを東にぐりぐり押し付けて真顔で彼女を問い詰める瑞希。 「……もうそれが『会長』で良いんじゃないか?」 「そうですね…って納得するわけ無いだろ!アホか! 」 乗りツッコミをして、ぬいぐるみを床にたたきつける瑞希。怒りの所為か若干キャラが崩れかけている。 「…もしかして、会長まだ生徒会室にいるんじゃ…」 「まぁ…恐らくそうだろうな…って、おい!どこへ行く!?」 「会長を助けに行くにきまってるんじゃないですか!」 そう叫んで彼女は屋上の出口へ消えていった。 それを尻目に彼女は、再びこめかみを押さえて、ぼそっと呟いた。 「…なんか面倒なことになったな」 ← 前へ → 次へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |