一章 「…………っ」 瑞希は口を閉ざしたままだった。 別に、何か隠しているわけではない。知らないのだ。 目の前にいる『人間』が何者なのか、一体何を聞きたいのか。 知らないものをどうやって答える事が出来る? ただ、今の会話で分かった事は、目の前のこの『人間』は『魔術師』である事である。 更に言うと、かなり高度な技術を持つ魔術師だと彼女は分析する。 実は心臓を掴まれているという感覚だけ感じているものの、それ以外の痛みは全く感じないのだ。 ここから推測するに、多分この魔術師はある魔術に精通した人物だと分かる。 空間魔術。 この魔術以外、こんな心臓を掴むような芸当は到底出来ない…いや不可能だ。 そして、この世の中に空間魔術を使える魔術師は歴史の中にただ一人だけである。 不老不死の体を持ち、全ての魔術師の頂点に君臨すると言われている『奇跡の魔女』 彼女の名は― 「瑞希から離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 その名を思い出す寸前に、聞き覚えのある声が、瑞希の耳に聞こえたかと思えば、 瑞希と魔術師の間に氷柱が現れた。 「…チッ。新手か。」 とっさに瑞希から手を離し、彼の攻撃を避けた。 「…会…長…逃げたんじゃないんですか?」 瑞希が皮肉交じりにそういうと 「僕が、幼馴染を見捨てるような非情な男だと思ったの?」 竜二は、いつもの笑みを浮かべて瑞希に言った。 「さぁて、僕の大切な幼馴染に手を出したのは一体誰なんだい?ほら、顔をみせなよ。」 そう言い放ち、彼はまっすぐ魔術師に向かって走った。 魔術師は避けようとしたが、いつの間にか彼の能力によって足元を凍り漬けにされていた。 ← 前へ → 次へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |