一章 アナウンサーがそう言って淡々と各地で起きたニュースを述べていく。 『先月起きた魔術師の事件は、六百五十件と前の月に比べ1.5倍増加しております。 警察本部は各市民に警戒と注意を呼び掛けています』 その後テレビに魔術師が起こしたと思われる事件の映像が映し出されていく。 「全く。こういう報道すると、魔術師全員が犯罪者だって勘違いする奴が出てくるからやめてほしいですよね」 そう瑞希が不愉快そうに呟いた。 「まぁ…マスコミ使っての情報操作で、魔術師を世間的に排除したいんじゃない?そういや、この街の魔術師関係の事件って聞いた事ないよね?」 「そりゃ、この街には私の家しか魔術師の家系はいませんから。それに、他の魔術師はこの街のセキュリティでほとんど入って来られないらしいし。入ってきても魔術そのものに負荷が掛かるようになっているから、そもそも事件を起こす事が出来ないんでしょう。 そのせいで、この街は別名「魔術師殺しの街(デス・マジックシティー)」なんていう物騒な名で呼ばれているわけですが…」 首を竦める瑞希 「…たしか、この街のセキュリティって千鶴さんが全面協力しているんだっけ?」 「うん。私のお母さん、家飛び出してお父さんを強制的に拉致という名の駆け落ちしちゃったのは、知っていますよね?そのせいで両方の家から追いかけられる事になって、その追っ手から逃れるために、当初、対魔術師用の街作りを掲げていた市長に交渉して、自らの保護の代わりにこの街のセキュリティシステムの製造の第一責任者になったらしいですよ。全く我が母といえども末恐ろしい」 「毎回思うけど、千鶴さんって本当に謙さん一途だよね。…まぁ、僕もあの人の気持ちはよくわかる。誰かの一人の為に命をかけられるってとても素晴らしい事だと僕は思うけどな…」 えー分かっちゃうんですか…と若干引き気味につぶやいた瑞希に苦笑いして再びテレビに視線を戻す竜二。 「そんなに引かなくてもいいの…に…っ!?」 「ん?どうしたんですか会長?」 瑞希が問いかけると、竜二は一瞬戸惑いの顔を見せたが、何事も無かったかのように 「…なんでもないよ」 といつもの笑みを浮かべて言った。 「?そうですか…ならいいですけど。 あっ!?もうこんな時間!早く行きますよ!!じゃないと今日中に終わりませんからね!?嫌ですよ!?また徹夜とか!」 そう言って駆け出す瑞希。 その背に向かって竜二は言った。 「ねぇ…瑞希。この世界に『奇蹟』って存在すると思うかい?」 「ええ、存在してほしいですね。今日中に仕事が終わる『奇跡』なんてものがあれば」 「あははは。それは是非とも起きてほしいね」 「誰の所為だと思っているんですか!?笑ってないで早く来てください!!」 「はいはい」と竜二が答えれば瑞希が「『はい』は一回!」と叫び竜二の先を行く。 だから彼女は気付かなかった。 後ろにいる幼馴染の顔が その笑顔の中に 喜びと少々の狂気を含んでいた事に-… ← 前へ → 次へ ⇒ 戻る ⇒ TOP |