イガグリ

三章

爆発の煙の中、ひとりの影が揺らめく。

「ったく。自爆なんて最期にしかしねーっての。
 あー…シールド長さ足りないな。サングラス飛んでいったじゃないか」

そう吐き捨てて、カスピーダは立ち上がる。
彼の胸元から出てる、シールドのようなものがあの爆発から身を守った。そして、その盾はパシュッと音を立てて彼の胸の中に納まる。
此処で分かるように彼も、普通の人間ではない。
体の三分の二が、機械の体なのである。

先ほど述べたように彼は、人生で一回しか魔術師狩りに失敗していない。

だが、その失敗が彼の運命を狂わせた。

奇跡の魔女…との戦いは彼を再起不能の重体までに追い込んだ。
下半身不随、右目はつぶれ、前の面影は見る影もなくなった。
そんなになっても、彼には魔術師を狩り続けなければいけなかった。

彼は、無魂者≠セから

銀色の瞳をもち、世界で唯一魔術が効かない人種。
人間の本能なのだろうか、『魔術が効かない人種』という未知に対する恐れは、差別という形で現れた。
故に彼らを取り巻く環境は常に侮蔑と嘲笑の中にあった。
無魂者だというだけで、生まれた時瞬間に殺されたり、売られたりする。

世界の最下層に位置する人種。

それが、彼らだった。

次第に魔術師が増えていく中、彼らを有効活用しようと考え始めた人々もいた。
魔術が効かない体質を活かして、訓練させて魔術師を狩らせる事。
欧米では、無魂者を渡せば国から金がもらえるという糞みたいな政策がある。
魔術師を狩れば狩るほど、無魂者も地位がもらえ人並みに暮らすことができる。

だから、彼らは狩り続けるしかないのだ。
重傷を負い戦えなくなった無魂者は、不良品とし殺処分される。
一体、何人の同僚が不良品として殺されただろうか…
思い出しただけでも吐き気がする。

無論カスピーダも例外ではなかった。
こうして生きていられるのも、部隊の上司が延命措置を取るよう指示し、更に自分の要望通り、機械化して戦えるようにしてくれたからである。
本当にあの物好きな上司には感謝している。

なにせ、復讐を果たすことができたのだから。

次第に爆炎が薄れていくことに彼は気付く。そして、足元に何か転がっていることにも気が付いた。
カスピーダはその物体と目があったような気がした。
まさかと思っている間にも爆炎は薄れ、物体の正体が見えてきた。

その物体は…

首だった

爆発衝撃で吹き飛んだのだろう。しかし、それにしては、やけにきれいだと彼は感じる。
まぁ、いいかとおもい『殺害証拠』としてその首を取ろうとした。


「いやぁ残念だったな。
 いい線だったけど残念!指を鳴らさなくても、私は勝手に再生されるらしいぞ?」


ぐにゃりと首が嗤った。
今度こそ。
今度こそ本物の絶望が、恐怖が彼を襲った。

言葉にならないような声をあげながらカスピーダは後ろへ下がる。

一歩
一歩

彼が下がれば下がるほど、首の下が生成されていく。
歩みを止めれば生成されないのではないかと思うが、本能が、脳がアレから距離を取ることを命令している。
彼が、屋上の手すりまで下がり切ったとき、目の前には

何一つ傷のついてないあの魔女が立っていた。

そして、彼女は申し訳なさそうに笑いながら

「そろそろ、終わらせないと瑞希に怒られてしまうな」

彼に向かって指を鳴らした。
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