イガグリ

三章


「うーん。槍で貫かれるのはもう飽きたな」

全身あらゆる所を槍で貫かれ、普通の人なら死んでるはずなのだが、彼女は子供がおもちゃに飽きてしまったような感じで呟く。
よいしょっと強引に体を動かした為、あらゆる場所が引き裂かれていく。
東自身は、痛みを感じてないのか、そのまま体を動かす。
強引に槍から引き抜いた場所は裂けたが、一瞬で元に戻っていく。

ブチブチと肉が引き裂かれる音を発しながら、串刺しの状態から抜けていく。
わざわざ空間魔術で脱出しないのは、彼女がこの感触を楽しんでいるからなのかもしれない。
後少しで抜けられると、彼女が思った矢先にまた槍が降る。
雨の如く降る槍が彼女の
手を
足を
胸を
頭を
まるで標本を作るように貫いていく。
しばらくすると槍の雨はやみ、屋上には槍の山が出来上がっていた。
槍の山の間という間から赤い液体が染み出ている。


さすがに死んだでしょう…

カスピーダは、通信機を握りしめながらそう思った。
通常の回復力の高い魔術師ならば、ここまで槍で貫かれた状態にすればいずれ出血大量で死に至る。

だが。

相手は通常の魔術師ではない。魔魔術師の頂点に君臨している『魔女』なのだ。
体中を槍に貫かれたはずの東の体が動いた。
そして、再び肉が裂ける音がする。

「………………うそだろ…」

カスピーダは戦慄した。
幾場の戦場を駆け抜け、多くの魔術師を狩ってきた歴戦の猛者だ。
魔女クラスの魔術師も狩ったことがある。

同僚に魔術狩りの秘訣とは何かと聞かれれば、いつもこう答えた。

ただの人間だと思う事

どんな超常的な力をもった魔術師でも、根本は『人間』であり
心臓を貫けば死ぬ。頭を砕けば死ぬ。
勿論、槍に全身貫かれれば死ぬ。
それ故にカスピーダはどんな魔術師相手にも動じる事は無かった。
そんなカスピーダの敗北は、人生で一回しかなかった。
相手は、目の前に串刺しになっている奇跡の魔女。
しかし、敗北した相手でも、奇跡の魔女も『人間』な限り殺せると思っていた。

だが…
本当に奇跡の魔女は『人間』なのか…!?

しばらくすると肉が裂ける音が無くなった。
代わりに指を鳴らす音が聞こえ、気づけば全身無傷の彼女が槍の山に腰を掛けるように座っていた。
彼女は何事も無かったかのようにあくびをしている。
先程まで、全身貫かれていた人間の態度とは到底思えない。

カスピーダは、急いで通信機に指令を送るが気づけば通信機からは雑音しか流れていなかった。
一体何が起こったのかと焦る、カスピーダの目の前に気づけば東が移動してきていた。
反射的に後ろに下がる。
東は追ってこない。ただただ、伸びをしているだけである。

「なぜだ…なぜ…」

「いやーさっきので百回は死んだんじゃないか?
 あはははは!すごいな!普通の人間ならもう死んでるのか!
 で、これで終わりか?」

無邪気な子供のように話しかける東。
嫌な汗がしたり落ちる。
本当にこの『魔女』の不老不死は魔術なのか…
そもそも目の前にいる、アレは人間なのか?

もしかしたら、自分はとんでもない勘違いをしているのではないのか?

東は、攻撃を受け続けることに飽きてしまったのだろうか、指を鳴らすと一瞬でカスピーダの後ろに回り、蹴りを入れる。
紙一重でそれをかわすが、再び指を鳴らす音が聞こえると頭上から、コンクリートの破片が落ちてきた。
かわし切れずに直撃する。
コンクリートの雨に構わず、東は追い打ちをかけるように突っ込んだ。
手には、先の戦いで砕けたコンクリートの破片を尖らせたものを握り、カスピーダの心臓にめがけて突き刺そうとした。
蹴り飛ばそうとするつもりだろうか、無魂者の膝は、まっすぐ東の顔面を狙う。

しかし、膝は東の真正面でとまり、服を内側から破るように銃口が出てきた。
東の思考が現状を把握するよりも先に、銃口から大量の弾が飛び出た。
銃弾を顔面に直撃を受けた東は、後ろにのけぞるようにして倒れた。

今度こそやった…

カスピーダは確信した。
槍では、即死までは至らず、回復魔術を使う余裕もあったのだろう。
ならば、とる手段は唯一つ。
回復魔術を使う余裕など与えずに即死させる事。
いくら魔女でも、至近距離の機関銃の弾を浴びれば即死なはずだ。
余裕など…な……

「すごいな!足から機関銃が出たぞ!すごいすごい!」

恐怖がせり上がった
カスピーダは、カチカチという音を聞いた。
その音が、歯がかみ合わない事による音だと理解するのに時間はかかった。
東を直視する。銃弾のせいで彼女の顔が原型をとどめて無い程ぐちゃぐちゃになっている。
なのに目の前の『魔女』は笑う。 
カスピーダの努力を馬鹿にするように嗤う。

「なぜだ!なぜ!機関銃を零距離で食らったんだぞ!
 普通なら即死だ!」

「普通…ならな。
 あいにく私は不老不死なのでな。即死とか関係ないのだよ。
 ひょっとして?ひょっとしてぇ?貴様、私の不老不死は魔術によるものだと思っているのか?
 だったらとっくの昔に『私』が解いてる!コレは、そんなちゃちなもんじゃない!」

あはははと魔女は嗤う。
顔が無い為、笑ったというよりは、笑い声が聞こえるだけなのだが…
それだけでも、この状況は異常な事は理解できる。
そして、導き出される答え…

ありえない。

と、カスピーダはたどり着いた答を無かった事にするように頭を振った。
あの魔女言い方だと、不老不死は魔術じゃない。
だったら、勝ち目など初めからない。

そんなはずは…

混乱する脳内を必死に整理する。
必ず仕掛けがあるはずだと。
きっと…きっと…
再び指を鳴らす音が聞こえたかと思うと、東の顔は元に戻っていた。

その動作をカスピーダは見て、ある事に気が付いた。
あの魔女が魔術を使うときに共通して行われる事。

それがきっと魔術発動の合図なのだろう。
ならばソレを封じれば…

確証はないが、やるしかない。
でなければ、自分はあの魔女の玩具にされて弄ばれて殺される。
チャンスは一度。
失敗すれば、もう後がない。


『女』とは思えない叫び声をあげて、カスピーダは東に突っ込む。
避けられれば、そこで終わる。
だが、絶対によけないだろうとどこかでは確証があった。

推測通り東はよける素振りさえしなかった。
むしろ、新たな攻撃に期待しているように見える。
一瞬で東の背後に回り、彼女の両腕の関節を外しうつぶせで羽交い絞めにする。
あまりの速さに東は何が起こったのか理解していないようだった。
カスピーダは、魔女の耳元でささやいた。
東は、『彼女』だと思っていた声が『彼』になっている事に気づく。

「お前まさか…」

「あぁ?今頃気付いたのかよ」

カスピーダの口調がガラリと変わる。
声や口調から、カスピーダは男だと東は悟る。
では?自分たちが胸だと思っていたものは…
彼は、腕…手首の骨を折り、東に密着するような姿勢を取って彼女にささやく。

「なぁ…魔女様?俺が思うに、アンタの魔術って指を鳴らさなければ発動できないと思うのだけど?」

「!!!!」

「ビンゴかね?この状態で全身木端微塵になったらさすがに死ぬよな?」

「っ!私と一緒に自爆する気か!」

東の反応を見て、カスピーダは笑う。
勝利への確信。自分が魔女に勝利できるという確信。
彼の胸が爆発した。

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