三章 「東!」 大量の槍が屋上へ投下されていくのを見て竜二は叫ぶ。 よろめきながらも、彼女の元に行きたい一心で歩もうとするが瑞希にそれを阻まれる。 「どいてよ瑞希」 「ダメです」 「なんで!」 「東さんは別に助けを求めていませんよ」 「でも!」 「でも?なんですか。行ってどうするんですか?また蹴り飛ばされるのが落ちですよ?」 「…っ」 「それにあの人は、不老不死です。死んだって生き返りますよ」 竜二は、その発言に信じられないようなものを見るような表情をした。 彼のそんな様子が理解できないのか、瑞希は眉をひそめて言葉を続けた。 「会長だって聞いたはずです。あの人は、死を体験したいんですよ。 だったら、気が済むまで死なせてあげればいいんです」 吐き捨てるように言い放った彼女の顔を竜二は、力いっぱい殴り胸ぐらを掴んだ。 彼に殴られるのは、初めての事だった為、瑞希は驚きが隠せない様子だった。 竜二は、彼女が今まで見たことのない表情と声で怒鳴った。 「ふざけないでよ!!東が不老不死だからなんなの!現に!今!この瞬間にも彼女は死んでるかもしれない! 生き返るからいいの?生き返るから見殺しにしろっていうの! 確かに東は死を望んでいるかもしれない!でも!死にさえも飽きてしまったら!? そしたら、東は本当の意味で自分の命に価値を見いだせなくなってしまうんだよ! そんな事二度も体験しなくていいんだ!不老不死なんて関係ない!人ひとり死んでるんだよ!」 はぁはぁと肩で息をしながら竜二は、今にも消えそうな声で「僕は東を今度こそ助けたいんだ」と呟いた。 ー…理解できない。 瑞希は混乱した。 単純に竜二の言動や行動が理解できないだけではない。今までの彼を知っている者として、その変わり様に理解が追いついていないのだ。 好きだからといってここまでするものなのか? 『恋』というものは、そこまで人を盲目にさせ、豹変させるものなのだろうか。 あの人と『彼』の過去に何があったのか… 本来の『彼』はこんな人間なのか… ぐるぐると頭の中で疑問が増えていくが、すぐに思考を切り替えた。 今はそこは重要ではない。 あの人に対しての執着は、誰よりも強いのは理解している。さっきの言葉も本気で言ってるのだろう。 だからこそ、無理矢理ねじ伏せた所で、良い結果にならないのも分かっている。 だったら、自分がやることは、やるべきことは… 『彼』を守り、尚且つあの槍を止める事である。 瑞希の心情については何も知らない竜二は、泣きながら瑞希にそこを退くよう懇願する。 しかし、彼女は殴られた頬を片手で拭うと冷静にもう一度「だめです」と返答する。 胸ぐらを掴んだまま竜二は俯いてしまう。 そして何か言おうとする前に瑞希が言った。 「会長を屋上に行かせることはできませんが、ここから東さんを助ける方法はあります」 「えっ…それってどういうこと…?」 「だから、あの槍を止める方法なら、ここからでもできるという事です」 断言する瑞希。 彼女は、胸ぐら掴んでいる彼の手を離させ、手をあげた。 竜二は、さっきのお返しが来るのだろうと目を瞑ったが、瑞希の手はいつまでたっても彼を叩きはしなかった。 恐る恐る目を見開くと、あの青髪の女に蹴られたところ魔術で治療しているのが目に入った。 彼女は軽く微笑み、竜二に言い聞かせるように言った。 「ほら。何ぼさっとしているんですか?この作戦には会長の力が不可欠なんですから。シャキッとしてください」 前へ |