イガグリ

三章



「あずまぁぁぁぁぁ!」

生徒会室のドアを思いっきり押して、竜二は叫ぶ。
しかし教室には誰もいなかった。
彼の後に入って来た瑞希も、首を傾げて「どこに行ったんですかね…」と呟いた。
彼女の声が聞こえなかったのか、竜二は教室の色んなところを探している。
瑞希が、彼に声をかけようとした時、上の方から、ドンッドンっと大きな音がし、大きく校舎が揺れた。

「今のって…」

「屋上の方ですね…」

「東…」

彼女の名前を呟いて、不安そうに顔をゆがめる竜二。普段の飄々とした彼はそこにはいなかった。
しばらく呆けていたが、弾かれたように教室を出ていく。瑞希もまた彼の後を追いかけて行った。

そして、屋上のドアに手をかけようとしたが、彼に追いついた瑞希がそれを阻んだ。
行動が理解できない竜二は、手を振り払おうとするが、彼女の方が力が強く振り払えなかった。
瑞希はまっすぐと彼を見てこう言った。


「会長…行ってどうするんですか」

「勿論助けるんだよ」

「誰をですか?」

「東だよ!ふざけているの!?」

「不老不死の魔女を貴方が助けるんですか?」

「そうだよ!」

「足を引っ張るの間違いでは?」

「…っうるさい!」

「会長!!」

瑞希の静止も聞かずに強引に手を振りほどいて、竜二は屋上へと踊りでた。
彼の後を追うように彼女も屋上に出る。

そして彼らが見たものは…

朝に合った青髪の女と、

屋上全体に刺さっている大量の槍と

その槍に全身あらゆる所を貫かれている東だった。

「あ…あぁ…ああああああああああああああああああああ!!」

言葉にはならない叫びをあげて竜二はカスピーダに向かっていった。
突然の乱入者に一瞬驚いたカスピーダだが、竜二の攻撃をかわす。
再び叫び声を上げながら竜二は、氷の槍を作り出し彼女の心臓を狙う。
槍がもう少しでカスピーダに刺さろうとしたが、一瞬でかわされ回し蹴りが直撃した。
嫌な音がし、竜二は回し蹴りの威力に耐え切れなかったのだろう、後ろに吹き飛ばされた。

最悪な事に、屋上はそこまで広い場所ではない。

竜二の体は、屋上の手すりにぶつかり、そして手すりごと外へ出される。
瑞希が走るが、間に合わない。

彼の体は手すりごと落下した。

…はずだった。

だが、いつまでたっても落ちた音がしない。
カスピーダも不審に思ったのか、眉をひそめた。

「標的は、私だけだろ?こいつらは関係ない」

声をした方を振り向けば、竜二を片手に立っている東の姿が。
さっきまで、槍に貫かれていたのがウソみたいに、彼女の体は傷一つ残っていなかった。
「会長!」と叫んで、瑞希は、東の横で座り込んでいる竜二に駆け寄り抱きしめる。
抱きしめられながら、竜二は「い…一瞬走馬灯見えた…」と泣きそうになりながらつぶやく。
そして、彼は東にも抱き着き「よかったぁ」と呟いた。
東は、無言で竜二を引き離すとカスピーダの方を向いた。
カスピーダは、竜二の方を見てから再び東の方に視線を合わせた。

「全く。不老不死は伊達じゃないみたいね。全身貫かれても、まだ生きているなんて」

「生きているというより、『生き返った』の方が正しいのだけど。でも、アンタすごいよ。
 さっきので、二十回は死んだじゃないか?」

「随分と余裕じゃないの…」

「ん?まさか、これで終わりじゃないだろ?
 私を殺すのだろ?まだまだ手はあるんじゃないのか?
 ほら、私を殺してみろ!」

東は、両手を広げて、相手を挑発する。
カスピーダは、通信機を取り出して、何かを言う。
その間、東は何もしない。
まるで、相手の攻撃を待ち望んでいるようにも見える。
そんな東を複雑な表情で見る竜二。

「東…まさかと思うけど、次の攻撃もよけないつもりなの」

「さすがだな竜二。本当に私の事は何でも知っている」

「馬鹿じゃないんですか貴女?さっさと倒せば終わるものを!」

「いや…あいつ、魔術効かないんだ。だから、殺す方法を模索するついでに、『死』の疑似体験でもしとこうかと思ってな。
 ほら、実体化してるからこそ味わえる感覚だからな、期間限定ってやつだ」

そう言って、笑顔を見せる東。
機嫌がいいのか、いつになく饒舌である。
だが、対照的に瑞希は、汚物を見るような目で魔女を見る。

「貴女…狂っている。進んで死にたいとか正気の沙汰じゃないです」

「お前も、不老不死になれば分かるさ」

瑞希の侮蔑も笑顔で流して、東は言う。
そして、指を鳴らした。
屋上にいた竜二達は、気づけば校庭に移動していた。
無事に校庭に移動させることができた事に、気が抜けたのだろうか、それともわざとよけなかったのだろうか、
次の瞬間。
カスピーダの蹴りが直撃し、東の体が鞠が跳ねるように飛んでいく。

「人の心配するよりも、自分の心配したら?」

「あははは、私は死なないからな。自分の心配なんてしないし」

笑いながら、東は立ち上がる。傷はない。
彼女は、反撃もする素振りも見せず、その場に立っているだけである。

―…舐められている

彼女自身は何も言っていないが、態度がそう表している。
カスピーダは、はじめ魔女の不死は実体化していないからだと考えていた。
だが、それは誤りであり、彼女は実体化しても尚どれだけの攻撃を直撃していても生きていた。
実体化ではないのなら、魔女の不死は圧倒的な回復力にあるのではないのかとカスピーダは、推測する。
奇跡の魔女の不老不死は不完全であるというのが、彼女の持論である。
本当の不老不死は絶対に存在しないと考えている。
奇跡の魔女は、空間魔術と時間魔術に長けているから、疑似不老不死ができたのだ。
つまり、根本は魔術なのだ。
その魔術さえ消してしまえば、あの憎き魔女を地獄送りにできる。
圧倒的な回復力は彼女の時間魔術で、細胞を活性化させる事で可能な事だと推測している。

ならば。

その回復力を上回る圧倒的な損傷を魔女に食らわせればいい。
口元をにやけさせて、彼女は通信機に向かって言った。

「殺れ」

その瞬間全方位から、先程より大量の槍が東に向かって行く。
不老不死の魔女は、その大量の槍を見てただ笑っていた。
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