イガグリ

三章



屋上の手すりに腰を掛けて、東は街を見渡している。
この学校は丘の上にある為、屋上から街を見渡すことができる。
東はこの景色が最近のお気に入りになっている。
足を軽くばたつかせて、景色を見ている。
少しでもバランスを崩せばそのまま落ちてしまうが、彼女は気にしない。
それどころか、半ばそれを期待しての行動である。
―…ここから落ちれば即死かな?
竜二が聞いたら絶対に怒りそうだなと、想像して軽く笑う東。

そういえば、昨日黒希が言っていたアシラ≠ニはなんだろうか?
どうやら、あの槍の持ち主らしいのだが、人の名前か?それとも組織の名なのだろうか?
瑞希達に聞けば分かるのだろうか?
はぁとため息をついて空を見上げる。今日は雲も少ない。
もう少し暗くなればさぞ綺麗な星空が見えるのだろう…

「一体…アシラってなんだっていうんだ?」

「私達の忌み名さ」

聞き覚えのない声がし、後ろ振り返った東の胸を槍が貫いた。
一体何が起きたのか理解しないまま、東は屋上に落下した。
ぐじゃっという人が落ちて重力でつぶれた音が校舎にこだまする。
質問に答えた人物は、今まで東がいた場所から下を見下ろしたが、落ちたと思われる場所には、人が落ちた跡はあったが、死体は無かった。

「なんだ?最近は不意打ちで槍を使うのが流行っているのか?」

後ろから声をして振り返ると、東がセーラー服に付いた埃を払う動作をしていた。
槍で貫かれた傷も、落ちた時にできたはずの傷も、何一つ彼女には残っていなかった。

「で、貴様は何者なんだ?あの槍の持ち主か?」

攻撃者は、青い髪をなびかせ煙草に火をつけて名乗った。

「如何にも。私の名前はカスピーダ。貴女を殺しにきたの」

東は、襲撃者の自己紹介に目を白黒させて、再び首を傾げる。
カスピーダは、自分の日本語が間違っていたかと東と同じように首を傾げる。
しばらく、間が空いて確認するように東が彼女に話しかけた。

「か…カスピーダ?外人さんか。綺麗な日本語使うんだな。
 で?私を…なんだって?」

「…馬鹿にしているの?」

「馬鹿にしている」

人を見下した表情でカスピーダを見る東。
馬鹿にされたことに腹が立ったのだろう。ギリッと煙草を噛む音が聞こえた。
そしてカスピーダは、吸っていた煙草を放り投げる。

宙を舞う煙草

それが床に接触するその瞬間

最強の魔女と魔術師狩りの戦いの火蓋が切って下された。
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