イガグリ

三章



今日は土曜日だったので、授業は午前中で終わった。
瑞希と竜二は、生徒会の仕事の為午後も残り、作業をしていた。
日もだいぶ傾き始めて、仕事も一段落し今は休憩といったところである。

「東ぁー」

「…なんだ」

「膝枕ぁー」

甘えるような声で東に膝枕を強請る竜二。
東は、一瞬顔を引き攣らせたが前のように拒否をすることはしなくなった。
そんな彼らを見ながら、瑞希は昨日二人っきりの時になにかあったのだろうと考えた。
大体、昨日の様子だと彼女が竜二と少しだけ分かり合おうとしたのだろう。

詳しく聞くという手もあるが、他人の恋路は干渉しないに限ると自己完結させて瑞希は教科書に視線を戻す。
無事に東に膝枕をしてもらえてご満喫な竜二は、瑞希の方を向いて驚いたような声を上げた。

「あっれー?なんで瑞希ちゃん勉強なんてしているの?テスト期間まだじゃん」

「何を言ってるんですか会長。明後日で一週間前ですよ」

教科書に目を向けながら、瑞希は返事をする。
時たまにノートに何か書いていたりしている。

東は、竜二に「お前はしなくていいのか?」と聞くと竜二は、「いいのー」という。
彼のその言葉を聞いた瑞希は嫌味たらっしくこう言った。

「会長は、教科書さえ読めば全部理解できますからね。うらやましい限りです」

「そうなのか?」

「まぁねーほら?僕天才だから?」

「勉強する必要がない会長は、私の代わりにさぞ仕事をしてくれるのでしょうね」

「えええー!聞いた!?東ぁー瑞希が僕をいじめるよぉ」

わざとらしく、目に涙を浮かべて東にすがる竜二。
そんな彼をどうしたらいいのか、分からずあたふたする東。
瑞希は、相変わらず教科書から視線を離さずに「いじめてませんから」と素っ気なく言い放つ。

しばらく無言が続き、気づけば日も暮れてしまっていた。
最終下校の時間が鳴り、瑞希達も帰る支度を始めた。

そして、東を残しいつも通り彼らは生徒会室を下りていく。
もう誰もいないのだろう…彼女たちが階段の音だけが校舎に響いている。

下駄箱までたどり着いた瑞希は、腕を組んで一言「おかしい…」と呟いた。
竜二は瑞希の呟きが理解できなかったのか、怪訝な顔になった。
周辺を警戒するように見渡した瑞希は、また「やっぱりおかしい…」と呟く。

「一体さっきから、何がおかしいんだい?」

「会長…ここに来るまでに誰かと会いましたか?」

「会ってないよ?それがなんだい?最終下校だよ?皆帰ったんだよ」

「確かに最終下校だからたいていの生徒は帰ってます…しかし、あまりにも静かすぎます」

「?良く分からないんだけど」

「今日は、野球部とサッカー部は延長で部活をしているはずなんです。
なのに校庭の方からも誰の声も聞こえないんですよ。
それに先生方だって普通は残っています」

「たまたまじゃない?」

大して気にしてない様子の竜二は、上履きから革靴に履き替えて玄関の扉に手をかけた。
だが、すぐに「ぎゃぁ!」という竜二の悲鳴と何かがショートした音がなった。
彼の悲鳴を聞いて慌てて、駆け寄った瑞希。
幸い、軽いやけどで済んだようで、命に別状はないようだ。
竜二は、「いたたた…」と呟きながら、ポケットからハンカチを取り出し能力で作った氷を包んで、やけどの部分に当てた。

しばらく、玄関口のドアを調べていた瑞希は、ドアの外側に何かが仕掛けられている事に気づいた。
そして、それは魔術の類ではないことも彼女は分かった。
―…おそらく、ドアを動かしたら電流が流れる仕組みなのだろう
出入り口をふさぐという事は退路を断つという事である。

一体何のために?

瑞希が悩んでいると竜二も彼女の隣に来て「うーん…生徒や先生がいないのもこれが原因?」と推論を述べた。
少し間が空いて、瑞希は「とりあえず、他の所も見てみましょう」と提案し、竜二もそれに賛同した。
結論からして、彼女たちは閉じ込められた。
他の出口にも玄関口と同じような細工がされており、その間にも人ひとり見かけなかった。
職員室を調べていた瑞希は、あるものに気が付いた。
ドアに札が張られていたのだ。

「この札って、阿片が持っていたやつ?」

「たぶん違います。この札の所にICチップみたいなのが張られています。人工的な人払いの類でしょう」

「じゃあ、誰もいなかったのは…」

「これによって、人払いがされたのでしょう…教室にも同じものが貼られたと思われます」

「でも誰が?いったい何のために?」

「それは…」

と、瑞希が推論を述べようとした時、誰かの足音が聞こえた。
振り返ると、迷彩服に身を包んだ銀目の屈強な男が現れた。
男は、驚いたような顔して訝しげに瑞希達を見た。
竜二は、一歩後ろに下がりながら瑞希に言った。

「ねぇ…あの人の目の色」
「ええ…“無魂者”ですね」

「銀髪…緋色の瞳…まさか貴様『緋色の魔女』か?」

「違いますよ。それは母の事です」

「なに真面目に返答してるの!」

「娘か…恨むなら自分の親を恨むことだな」

男は、そういうと走って瑞希達の方へ向かってきた。
瑞希は、咄嗟に針を構え男に向かって投げた。
「無駄だ!」と男は短く叫んで、針を叩き落とす。
だが、彼女は別に針で攻撃しようとしたわけではなかった。
一瞬で男の懐に潜り込んだ彼女は、彼の服に手をかけ、
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」と叫んで、男を背負い投げした。
男は宙を舞い、廊下に叩き付けられそのまま気絶してしまった。
竜二は、男の近くに歩み寄って「一本!!」と言った。
軽く手をはたきながら、瑞希は首を傾げた。

「この軍装は、ドイツあたりの魔術師狩りの部隊の服ですかね?」

「そうなの?」

「確か…目的は私?」

「でも、さっきの人は、瑞希の事ちゃんと理解するのに時間かかっていたよ」

「そしたら、狙われているのは…」

ハッとしたような顔になる瑞希。竜二もまた彼女の反応を見て固まる。
お互い顔を見合わせると、弾かれるように生徒会室へと向かった。
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