イガグリ

三章

「……」

「おっと…俺様を攻撃しない方がいいぞ?言っただろ?『瑞希』だって」

「人格交替で髪の色が変化するなんて、聞いたことないが」

そう東に言い返された黒希は、短く口笛を吹いて「良いところ突いてくるねぇ〜」と笑いながら言った。
彼女は、しばらく考えた素振りをしていたがまた東に顔を近づけて説明をした。

元々瑞希は黒髪黒目だったが、彼女の体内を巡る黒月家の血―…即ち魔力が原因だという
この魔力は、強ければ強い程体中の色素を奪ってしまうという副作用があるらしい。
その為、この副作用で髪の色が銀色で紅眼となっているということである。
で、人格交代するとなぜか魔力がなくなってしまう為、黒髪なってしまうらしい。

その説明を訝しげに聞いていた東だが、眉をしかめながらも納得したようだった。

「……。分かったお前が『瑞希』だという事にしよう」

「本当の事なんだけどなー」

「それで、貴様は私になんのようだ?ただ世間話をしに来ただけか?」

「半分正解で半分違う」
「?」

「俺様はな、竜二が好きだ」

「…………………は?」

突然の告白に、思わず間抜けな顔をする東。
その表情がムカついたのか、彼女はすこしむっとした顔で、東の頬をつまんだ。

「いたたたたた」

「だーかーら、俺様とっても怒ってるの!分かる?」

「意味が分からん…あんな奴、別に…いたっ!」

「別に好きでもない」と言おうとした東に平手打ちをする黒希。
抗議しようとして口を開いた彼女にお構いなしにもう一度平手打ちをする。
再び抗議しようとした東だが、黒希の冷やかな視線を受けて押黙った。

「魔女様がぁ嫌いでも俺様は好きなの!で、俺様が好きな竜二君は魔女様好きなの!オッケー?」

「お…おっけー」

「優しい優しい俺様はね、竜二君には幸せになってもらいたいの」

「はぁ…」

「単刀直入に言うが、魔女様竜二のものになれ」

「なっ…!!」

「なっ!じゃない。それが一番みんな幸せだ!」

そう言い放って、「俺様マジ天才」と誇らしげにつぶやいた。
だが、東はその話に不満があるようで、反論した。

「無理だ!会って数週間しかたってない奴のモノになれないし、なりたくない!」

「本当にそう思うのか…?」

「当たり前だ!」

「うっわー竜二君かわいそーチョーかわいそー!
命よりも愛してる人から、そんな事言われたら悲しみで死んじゃうね!」


「何言っているんだ貴様は。あいつは、そこまで私の事好きじゃないだろ!」

「ばっかじゃねぇの!?昨日の話を聞いてもそう言えるんだ!魔女様サイテー
アイツはなぁ、あんたの為に今日まで生きてきたんだよ!」

そう叫んで、今度は東を殴る。
一発では気が済まなかったのか、二発、三発と殴り続ける黒希。
東は、逃げる素振りもせずただ殴られるままだった。
暫く殴り続けてた黒希であったが、ある事に気がつく。
大体十回殴ったはずなのに、東の顔には腫れなく傷もついていなかった。

「さすが魔女様。不老不死は伊達じゃないってか」

「傷は治っても痛みは残る。だから、そろそろ殴るのはやめてくれないか?
『瑞希』でもうっかり殺してしまうかもしれん」

「こわーい」

「茶化すな。そして、さっきの話はどういう事だ」

「さぁーねぇ。気になるなら本人に聞けば?」

「…余程私に殺されたいようだな」

東は静かに言って黒希を睨みつける。
だが、黒希は茶化すように「怖い怖い」と呟いただけで、怯える様子も無かった。

幸いと言っていいのか、黒希が抑えているのは東の腕のみであり、指は動かせる状況である。
無言で彼女は指を鳴らして、黒希の背後に学校に置いてある掃除用の箒を出現させた。
箒は柄の方を黒希達に向けて、風を切るような音を出しながら彼女たちに向かっていた。

そのまま進めば、二人が串刺しになるような角度である。

だが、箒は彼女達を串刺しにすることは無かった。
黒希が箒の存在に気付き、目にも止まらない速さで蹴り飛ばしたからである。
蹴り飛ばされた箒は、屋上の端っこに落ちて砕けた。

「てめぇ…俺様と心中するつもりかよ」

「別に。私は不老不死だからな。死ぬのは貴様だけだ」

「いかれてやがるぜ。『瑞希』を殺したらてめぇーだって無事にすまねぇぞ」

「急所は外すつもりだったし、治療魔術も使うつもりだった」

「そーいう問題じゃねぇだろ」

そうぼやいてから、黒希は気付く。
箒を蹴り飛ばした為に、東の拘束を解いてしまったことに。

拘束を解かれた東は、形勢が逆転したことで余裕を持ったのか、ゆっくりと立ち上がった。
そして、静かに黒希に向けて指を向けた。
彼女を睨めつけながら東は脅すような声色で言った。

「で…さっきの話はどういうことだ?」

「どーいうことって言われてもそのまんまの意味だし。
ぶっちゃけ、俺様詳しいことしらねぇーし」

「…だったら、竜二で知ってる事全部話せ」

「話してどうする?」

「なに」

「仮に俺様が竜二君について話したところで、魔女様はどーするんだ?
 ただでさえ、竜二君の事避けてるくせに」

「…だからこそだ。あいつは『私』を知っている。『私』を知るには手っ取り早い。
 それに…この先あいつを信じていいか見極められる」

「馬鹿じゃねぇーの。
自分から向き合わないくせに、信じられる云々ぬかしてんじゃねーぞ」

「…」

「そもそも、ここで俺様が「大丈夫、竜二君は魔女様の味方だから信じて」なんて言って、てめぇは信じるか?あ?」

「それは…」

「信じねぇーだろうが。だから、俺様は怒っているんだよ。
 竜二君は本気で魔女様のこと助けたいと思っているのによぉ。それって、かなり失礼じゃねぇか?
 確かに、あいつにも非はある。だがな、逃げてばかりじゃ何も進まねぇし、できねぇよ」

「だが…」

「それによぉ、魔女様。最近アンタ自分探しに躍起になっているみたいだが、優先順位間違えてるんじゃねぇの?」

黒希は東を睨みつける。
思うところがある事は自覚しているらしく、東は視線を逸らした。
ぶつぶつと独り言に何か言っているのは聞こえるが、黒希の距離ではきちんと聞き取れなかった。


彼女は、そんな東の態度を見てて沸々と怒りが込み上げていくのを感じていた。
『瑞希』は、魔女様の事は嫌いではないみたいだが、自分はどうにもこうにも好きになれないみたいだ。
はっきり言って、竜二の好みを疑うほどである。

自分も別に品行方正な女ではないし、人の事は言えない。
だが、分からない。
こんな奴を好きになったのか…
そもそも、竜二君は魔女様の事が『好き』なのか?
彼曰く、生きる意味だと言っていたが、果たしてそれは『恋愛感情』なのかは甚だ疑問である。
まぁ、このことは竜二君に言わずに心の中にしまっておこう。

誰だって、好きな奴の悪口なんか聞きたかねぇーもんな。

そう自己完結した黒希は、東を一瞥するとまだ彼女は下を向いて何かつぶやいている。
薄らと目に涙が浮かんでいるのは気のせいだろうか…
軽く舌打ちをした黒希は東に何か話しかけようとした。
だが、その行為は屋上のドアを開いて竜二が入って来た事で止められてしまう。

入って来た竜二は黒希と東は交互に見て黒希に対して怪訝な表情をした。
黒希は、現状を冷静に考える。
目の前には泣きそうになっている東。彼女の目の前には、自分がいる。
そして彼は、東の事が好きである。

もう一度言う。彼は東が好きである。

殺される―…

思わず、顔が引きつる黒希。
一方、東は突然の竜二の出現により目を開いたまま。硬直していた。
竜二は、そんな東を悲しそうに見つめてから、再び黒希の方向へ顔を向けた。

「…これはどういう事かな?」

「いっやー…ちょーと世間話していただけさ。なぁ魔女様?」

「……」

「魔女様!」

「あっ…そ…そうだな」

「ふーん。まっいいや。黒希そろそろ戻らないとお昼休み終わるよ?」

「お…おう!」


竜二のお咎めが無かった事に安堵する黒希。
は、東に何も言わず屋上のドアの方へ向かった。
そして一瞬何か考える素振りをしてから東の方へ振り返って言った。

「ねぇ…東。昨日言った場所に本あった?」

「…………あぁ」

「そっか。中身どんな感じのものだった?」

そう聞かれて、返事を考える東。
彼女の脳内に、さっき黒希に言われた言葉が反響する。
ぐっと唾を飲み込んで、東は本の内容を答えた。

答えてもらえないと思っていたのだろう。
竜二は一瞬驚いた顔をして、はにかみながら言葉をつづけた。

「へへへ…そんな内容だったんだね。そしたら、放課後皆集めて一緒に考える?」

「そうだな…」

「じゃぁ、放課後集合で。また後でね!」

竜二はそう言い残して、屋上のドアを開いて出て行った。
黒希もそのあとに続いて、屋上から去る。

また一人になった東は、空を仰いで、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「『相手と向き合え』…か」


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